対アジア原子力外交の促進                          (電気新聞  2006/1/6掲載)

                金子 熊夫 

「一陽来復」の譬えのように、原子力は長い冬の時代を漸く抜け出して、再活性化への道を歩み始めたようである。国内では昨秋、「原子力政策大綱」が決定され、再処理を軸とする核燃料サイクル路線が再確認されたことは大きな前進だ。現在、六ヶ所再処理工場は本格操業に向けて、高速増殖炉「もんじゅ」は運転再開に向けて、それぞれ着々と前進しているようだ。むつ中間貯蔵計画も実施段階に入った。

海外でも、米国で30年ぶりに原子力発電所新設の準備が進んでいる。長い間チェルノブイリ事故の後遺症に苦しんでいたヨーロッパでも、ドイツがやや不透明なものの、英国その他の国々では原子力を見直そうという機運が徐々に高まっている。地球温暖化対策として原子力の有用性が再認識されたためで、グリーンピース等の国際環境団体の中からもそのような声が出てきていると伝えられる。

最も注目されるのはやはりアジアだ。エネルギー需要が急増する中国、インドはもとより、東南アジアでも、インドネシア、ベトナムなどが今後1015年以内の稼動を目指して導入準備を急いでいる。それに連動して、諸外国による原子炉輸出競争も日増しに激化している。

 こうした状況の中で、一方で核拡散防止を図りつつ、他方で原子力平和利用を推進するための新たな国際システム作りも、国際原子力機関(IAEA)や米国の主導で動きつつある。イラン、北朝鮮、パキスタンのような「問題国」は別として、核不拡散条約(NPT)の加盟国としての義務を果たしつつ真面目に原子力平和利用に取り組んでいる国々を援助することは、弱体化が懸念されるNPT体制の存続、強化にもプラスとなるだろう。

 これまで、六ヶ所再処理工場への悪影響等を恐れて、こうした「多国間核管理構想」に後ろ向きであった日本政府も、最近やや前向きに対応しようとしているのは歓迎すべきことだ。国内の原子力推進体制の基盤が一応固まってきたので、今年こそは是非とも、活発な原子力外交の展開を期待したいものである。

我が国の原子力輸出はアジアにおける「安全で平和な原子力」の普及に資するだろうし、それにより国内の原子力産業が活性化すれば、技術の継承と人材の温存にも繋がるだろう。

 そのような観点で、早急に政府当局に要望したいことをいくつか列挙すれば、次のとおりである。

一、国のエネルギー政策を国家戦略の視点から審議し、その枠組みの中で原子力政策をも明確に位置づけるために、内閣総理大臣を議長とするハイレベルの官民合同の「国家エネルギー戦略会議」(仮称)を創設せよ。この提言ついては、昨年9月12日の本欄で触れたが、再度強調しておきたい。

二、この戦略会議の下に、「原子力の海外展開に関する関係閣僚会議」を設置し、従来縦割り行政でバラバラだった対外原子力活動を統一的かつ強力に推進する国家体制を確立せよ。諸外国の例を引くまでもなく、原子力外交は国のトップが主導すべきものだ。

三、アジア諸国に日本製の原子炉を輸出するためには、相手国との間に二国間原子力協力協定を締結する必要がある。今からでも遅くないから、ベトナムやインドネシアとそうような協定を結ぶべきだ。当初は「枠組み協定」のような比較的簡単なものでもよい。

四、本格的な原発導入の前に行なわれるフィージビリティ・スタディ(F/S)

は、これを引き受けることにより有利な立場に立ちうるので、まずこの競争に勝つ必要があるが、そのための一手段として、政府の開発援助(ODA)資金を使えるようにすることが望ましい。原子力を忌避する理由はない。