「エネルギー国家戦略会議」を創設せよ

                              金子 熊夫

 

 昨年初め以来一年半にわたる日本の原子力政策論議が、いよいよ今秋中に「原子力政策大綱」という新しい形式で結実しようとしている。 

新政策大綱の最大の特徴は、いうまでもなく、従来とかくブレがちであった核燃料サイクルの基本路線がかなりはっきりした形で再確認されたことである。これによって、近く試験運転に入ろうとしている六ヶ所村再処理工場の本格操業開始にも公式のGOサインが出たわけだ。昨年夏、「19兆円の請求書」などという怪文書が出廻ったころの騒然とした国内状況を思えば、よくぞここまで漕ぎ着けたもので、厳しい批判の中で辛抱強く策定作業を推進してきた原子力委員会の努力にまずもって敬意を表したい。

 ただし、政策大綱が決定したと言っても、これで万事OKというわけではない。現時点の大綱案を仔細に見ると、いくつか不満な点が残っているのは事実だ。そこで、「隴を得て蜀を望む」のそしりを覚悟の上で、若干辛口の批判と注文を申し述べておきたい。

 先ず、高速増殖炉の開発問題について。現在の大綱案では、2050年ころの実用化(商用化)を視野に、目下核燃料サイクル開発機構(JNC)が実施中の実用化戦略研究の結果を踏まえて、2015年ころに具体像をまとめるとしているが、これはスロー・ペースに過ぎると思う。本欄でも再三指摘したように、真に2050年の実用化を目指すのなら、2015年以前の出来るだけ早い時期に国としての実用化路線を固め、諸準備を整えることが必要不可欠である。このために原子力委員会の下に常設の「高速増殖炉実用化検討委員会」(仮称)を新設すべしとの我々の提言を再度強調しておきたい。

 しかし、それよりもっと重要な問題点は、原子力委員会のあり方を含む、日本の原子力政策の決定プロセスについてである。とくに問題なのは、電力の自由化と国のエネルギー政策全般との整合性だ。大綱案では電気事業者の経営上の姿勢について、いくつかの問題認識を指摘しているが、それが具体的にどのような問題であり、原子力委員会としてどのような解決方法を期待しているのか、基本的な考え方が示されていない。

他方、経済産業省の諮問機関である「総合資源エネルギー調査会」の「電気事業分科会」では、7月から電力自由化と原子力の関係について審議を始めたようだが、この作業のベースとすべき原子力委員会の考え方も十分示されていない。

もう一点は、国のエネルギー情勢判断と原子力政策との関連である。大綱案には、最近の原油価格高騰についての評価が示されておらず、長期的に見た総発電量に占める原子力発電の供給割合を30~40%で良しとした根拠や、前述の高速増殖炉の商用化の目標時期を2050年とした理由が明示されていない。行政庁や業界の予想をなぞることなく、長期的な原子力政策策定上必要な範囲で、国内外のエネルギー政策について首相に進言するのが、原子力委員会の責務ではなかろうか。

言うまでもなく、エネルギー国家戦略には原子力政策だけでなく、国内外の、化石燃料、新エネルギーを含む全てのエネルギー資源の現状と長期的評価と、それに基づくエネルギー安全保障のあり方、そのための資源外交、国際協調、エネルギーと環境問題、国民への伝達、教育等が含まれており、多くの行政官庁に跨る課題である。

そこで、省庁の枠を超えて横断的かつ継続的な審議を可能にする、内閣総理大臣直轄、官民合同の「エネルギー国家戦略会議」(仮称)と、その常設支援組織の設置を強く提案する。ちなみに、これは筆者が関係する「EEE会議」の有志会員50余名の共同意見である。

 

 

電気新聞・時評  2005/9/12 掲載