再び、高速増殖炉の早期実用化を

                          金子 熊夫

 

六ヶ所再処理工場の試運転開始、「もんじゅ」の改造工事着手、MOX工場立地基本協定の締結等々、このところ原子力関係の動きが概ね順調である。長引いた停滞の後だけに、「冬来たりなば春遠からじ」の感が深い。

一方、新原子力長期計画(長計)の策定作業も、原子力委員会の強力なリードで着々と進行しているようだ。とくに高速増殖炉開発問題については、従来通り積極的に推進して行くとの基本的な方向がすでに確認されている。

日本のエネルギー安全保障上、核燃料サイクル路線の確立が必要であり、そのために高速増殖炉の実用化が急務であることは明白だ。筆者も本欄で再三強調してきた。今後の問題は、具体的にどのようなロードマップで高速増殖炉開発を促進して行くかである。

長計策定会議では、二月の段階での「論点の整理」で、現在核燃料サイクル開発機構(JNC)が実施中の「高速増殖炉実用化戦略調査研究」のフェーズUの成果が05年度末に出るので、それを評価した上で今後の研究開発の方針を提示するとし、引き続きフェーズVが「適切な実用化像とそこに至るまでの研究開発計画を2015年頃に提示することを目的として行なわれ、その結果を見て、国は2015年頃から、適切な実用化像と研究開発計画の検討を行なう」という方針を示している。

別途、策定会議が三月末にとりまとめた「エネルギーと原子力発電について」(論点の整理)では「高速増殖炉についてはプルサーマルなど核燃料サイクル事業の実績を踏まえつつ、経済性などの諸条件が整うことを前提に、商業ベースで2050年頃からの導入を目指す」と、従来考えられていたよりも若干遅めの目標設定がなされている。

 しかし、仮に商用炉を2050年に運転開始しようとすれば、諸般の状況からして、決して余裕のある工程ではない。少なくとも2015年までには、実証炉建設に向けて、直ちに採用できる「実用化像」を示すことが是非とも必要と考えられる。

 我が国の高速増殖炉の研究開発は、「もんじゅ」の事故以来十年余にわたり停滞を余儀なくされた。この間に、高速増殖炉関係の研究者、技術者の多くは定年退職を迎えており、技術の継承の問題が懸念されている。大学でもこの方面の研究に取り組む学生の数は確実に減ってきている。

 翻って世界的にみると、中国、インドをはじめとする開発途上国の急激なエネルギー需要拡大、産油国側の生産余力の減少等々の構造的理由により、石油価格は今後益々高騰する危険性が高い。このような状況を見込んで、中国やインドでも原子力発電を促進しており、高速増殖炉の研究開発にも熱心に取り組んでいる。

 エネルギー資源小国を自認し科学技術創造立国を標榜する日本こそ、もっと気概と危機感をもって高速増殖炉の実現に邁進すべきである。石油高騰に対処するためにも、2030年以降に予想される現用軽水炉の建て替えの一部に間に合うように高速増殖炉の実用化を急ぐべきである。

 そして、そのために今最も必要ことは、高速増殖炉開発をオールジャパン態勢で強力に推進する責任体制を早急に確立することであり、そのため原子力委員会の下に、関係省庁、JNC、原研、電力、メーカー、学識経験者等からなる「高速増殖炉実用化検討委員会」(仮称)を設置することである。

 実は、これは、私が関係している「エネルギー環境Eメール(EEE)会議」と「エネルギー問題に発言する会」の有志会員一同63名が連名で先週公表した政策提言「我が国の高速増殖炉開発に関する再提言」の骨子である。詳細は、EEE会議のホームページ(http://www.eeecom.jp/)に掲載されているので、是非ご覧いただきたい。

 

 

 

  電気新聞・時評欄掲載2005.4.25