050319 Re: 「我が国の高速増殖炉開発に関する再提言」(第2次案050319): 益田恭尚氏とりまとめ <重要>
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我が国の高速増殖炉開発に関する再提言案
(第2次案05/3/19)
EEE会議有志会員一同
エネルギー問題に発言する会有志一同
<日本国にとって高速増殖炉の早期開発と実用化が必要であり、
そのためのオールジャパン体制作りが急務である>
1. 再提言に至った理由と我々の考え方
我々一同は、本年1月半ばに「我が国の高速増殖炉開発に関する緊急提言」を公表し、高速増殖炉の早期開発の必要性について提言を行った。その後2月初め、原型炉「もんじゅ」は幸い地元自治体の了解を得て、運転再開に向けた改造工事の準備作業を開始するに至った。
一方原子力委員会においては、次期長期計画策定会議が2回にわたって開かれ、高速増殖炉の研究開発のあり方について審議が行われた。策定会議がまとめた「高速増殖炉サイクル技術の研究開発のあり方について」によれば、高速増殖炉開発の重要性は再認識され、開発を継続することが概ね確認された模様である。
しかしながら、推進を主張する我々の立場からみると、その議論の中に高速増殖炉を早期に開発しようという気概が感じられず、進め方に些かの懸念を感じるので、多少とも具体的な案として、敢えて再提言を行なうものである。
関係機関におかれては、この再提言を十分勘案して、広く議論を起こし、わが国のエネルギー問題の将来に悔いのない計画を立てられることを切望する。
2. 再提案の根拠となる具体的な考え方
エネルギー・セキュリティーの確保のための最大の案件は、石油の時代の次の担い手と想定される原子力発電の開発促進と、燃料サイクルの完結であると考える。
これについても原子力委員会で既にその方向が明示されている。しかし、原子力は大型開発であるため足が非常に長く、石油価格が高騰してから開発を始めたのでは間に合わないことを忘れてはならない。
このような視点からみると、原子力委員会・次期長期計画策定会議の高速増殖炉についての「研究開発のあり方について」に提示された進め方でよいのかという点に大きな疑問を感じる。
同資料によると、国は2005年度末を目標に核燃料サイクル開発機構(JNC)が各機関の協力を得つつ進めている「実用化戦略調査研究」フェーズUの成果を評価し、研究開発の方針を提示するとしている。引き続きフェーズVが「高速増殖炉サイクル技術の適切な実用化像とそこに至るまでの研究開発計画を2015年頃に提示することを目的として」行われるとしており、その結果をみて、国は2015年頃から、適切な実用化像と研究開発計画の検討を行うとしている。
原因はともかく、原型炉「もんじゅ」は、ナトリウム漏洩という高速炉の基本的で、またプリミティブなトラブルを経験したことにより、ほぼ15年近くにわたる停滞を余儀なくされたのである。時がたてば技術が進歩し、より優れた技術が自然に芽生えるといった甘いものではない。この貴重な経験を糧に、その熱が冷めない内に、緊迫感と危機意識を持って一刻も早い開発を目指すべきである。
国及び原子力委員会の計画案に対し、我々の思考がなぜ違うことになるのかという点について考えておく必要があろう。国のエネルギー計画の基本は「エネルギー政策基本法」とその実行を規定した「エネルギー基本計画」に明示され、さらに経済産業省の諮問機関で提案した“2030年のわが国のエネルギー事情”に示されているものと判断する。これには原子力発電を推進することが明記されている。
しかし、その具体的な推進策については示されていない。政府機関の想定モデルは、世界および日本のエネルギー需給について、国際エネルギー機関(IEA)の判断に準拠し、地球資源は十分あり、開発のために資本を投下し開発努力を強化すれば2030年にも石油価格35$/バレルは十分達成可能であるとのシナリオの上に立脚しているものと想定される。
我々は世界の石油事情をもっと厳しくみるべきであると考える。世界の有力学者からも既に石油ピークは過ぎ、便利な石油時代は終わったとの警告も出されている。その兆候は、昨年暮れ以来、石油スポット価格が50$/バレルを再三にわたって越えていることからも十分推測されよう。政府の政策に、世界のエネルギー事情の変化により、もし不幸にして石油価格が50$/バレルはおろか100$/バレルが常態化したとき、日本のエネルギー問題をどう解決するかという視点が欠けているのではないかと危惧するものである。またこのような事態になれば原子力なかんずく高速増殖炉の競争力は大幅に向上することも忘れてはならない。
原子力委員会における高速増殖炉の議論も2050年のエネルギー・セキュリティー問題については深く議論せず、政府の考えを追認したものと判断する。
わが国のエネルギー・セキュリティーを確保するためには、石油入手の困難さの増大、価格の異常上昇に対し、十分な備えを準備する必要があることを強く訴えるものである。
2015年頃以降にJNCの研究の成果として“適切な実用化像”が示された場合、次のステップにどう進むのであろうか。
計画案が優れたものと認められ、国が資金を出すことが決り、開発建設主体が決められ、実証炉を建設することになったとしても、その建設主体はどのように行動することになるかを考えておく必要がある。
建設主体は建設計画を立てることから始めるであろう。組織体制を整え、基本計画を立直し、詳細設計が始まることになる。その場合、フェーズVの成果の内、誰の目にも優れていると考えられる研究成果は利用されるであろうが、その他の計画がフェーズV計画案通りに進められるとは考えにくい。基本設計、場合によっては研究開発や実証試験のやり直しが必要になるであろう。それから始まる、サイトの選定、環境調査、詳細設計、設置許可申請というステップを考えると、フェーズVの検討結果が無駄になるだけでなく、それから始める実証炉建設は実質的に30年程度は必要となるとみるべきであり、実証炉の運転開始は2040年以降にずれ込む可能性が高い。
その結果をみて開発が進められると考えられる商用炉が、戦列に入り運転を開始するのは、楽観的にみても2070年以降になると考えざるを得ない。
果たして廃炉が予想される軽水炉の代替に間に合うであろうか。また、軽水炉を始め、このところ停滞している原子力発電所建設の実態を思う時、技術継承の点からも大きな穴が開くことを憂慮せざるを得ない。
高速増殖炉の開発は石油価格上昇と、軽水炉の再立ち上げによるウラン価格の高騰を予測し、早期開発を実施する必要があろう。
このような視点から考えると、商用炉の建設までに余裕はなく、JNCのフェーズVの研究開発は、可能な限りスムースに実証炉建設につながるように実施することが強く望まれるのである。このような観点から考えると、実証炉の建設体制主体のあるべき姿を検討しを早期に、建設主体を中心としたプラント計画の調査研究を、JNCのフェーズVの研究と並行して、進めるべきであると考える。
当然のことながら、開発体制決定の基本はだれが実証炉建設の資金を出すかということであろう。この点は前回の提言にも述べた通りであるが、「もんじゅ」の開発が順調に推移していて、かつ、電力料金体系が旧認可制度の下であれば、電力業界が負担すべきであるという議論になったであろう。しかし、電力自由化が進み、グローバリゼーションの動きの中、電力の経営者は株主に対してもそのようなリスクを犯す提案はできないのが現状である。まして原子力メーカーは商用軽水炉の受注もままならない状況では、次世代炉の研究に自社資金を投資する余力は全くないと考えるべきであろう。国は2050年以降の国民の生死を握ると考えられるエネルギー・セキュリティー確保のためには、大型の研究投資が必要であることを強く認識すべきである。
翻って世界の現状を見ると、高速増殖炉の開発がロシア、中国、インドという資本主義国家とは異質の国において、国家予算を投入して進められている。最近に至り、米国でも次世代炉開発として国が中心となり、高速炉を含む第4世代炉の開発を実施することが決められている。
原子力先進国を自負するわが国としても、国が開発資金を出して、将来の石油代替の担い手と考えられる高速増殖炉の開発を早期に進めるべきであろう。
無駄のない研究開発を実施するという視点からみて、開発体制の早期決定が極めて重要である。
実証炉の建設主体は国の機関が当るべきであろうか。原子力分野においては初期の各種基本的原子力研究を始め、高速増殖炉の他にも新型転換炉(ATR)、燃料再処理、ウラン濃縮等の商用化前の研究開発が精力的に実施され、それなりの成果を挙げてきた。しかし、研究成果を商用化するというステップにおいては、特許問題や技術移転についての有償化問題という観点から、基本設計思想や不具合情報等の情報開示等について国(旧動燃)は極めて消極的であった。このため民間に技術移転がうまく行われなかったといわざるを得まい。
これらの経験から、開発研究は統一ある組織体制のもと、一つの流れとして実施しなければならないという貴重な教訓を得た。これに対し、JNCは文部科学省に属し法律上も実証炉の研究開発は実施しないことになっているとのハンデを負っている。
そのように考えると、経済産業省が中心となり、政府が研究補助金を出すことにより、高速増殖炉の実証炉の建設を進めるというポジションを明確にすべきである。
建設主体は、将来商用炉の運営をすることになる電力会社がなるのが自然であり、最も現実的であると考える。この建設主体により、基本設計、研究開発のフォロー、プラント設計、用地の選定等一貫した計画を進めていくべきである。
建設主体の組織形成の重要な課題はリーダーの選定にあることは云をまたないが、もう一つの条件は経験者の採用である。高速増殖炉計画およびそれに関連する燃料サイクル技術は、当初からJNCが主体となって開発を進めてきた。ためそのため、それ以外の組織では一貫したノウハウを所持していないという事情を考慮すれば、この開発主体にはJNCでこれらに関連する開発に携わってきた主力メンバーを取り込むことが極めて大切である。
実プランとの建設に向けて組織される建設主体は、先ずJNCに蓄積されてきた知識、データベースを収集・整理することが極めて重要である。それと共に広く周知を集める態勢作りに努力を傾注すべきであろう。
その上に立って、客観的立場で高速増殖炉に求めるべきニーズを集め、設計方針と設計目標を明らかにすべきである。当然、この中には商用プラントも視野に入れて、建設コストの目標値、運転保守性を含む稼働率、許認可性、サイト住民の受容性等についての目標も含まれるべきである。
これらの目標は、電力会社の承認を得ることが必須である。また、心あるプラントメーカーの意見も聴取することが重要である。
メーカーは建設主体からプラント設計を責任をもって受注するため、責任体制が一本化されたメーカー連合体の形成することが要求される。連合体が責任を持って、開発主体から提示された目標に向かって、開発方向を定め、設計試案を出し、建設主体に対してその結果を逐次報告することが求められる。建設主体はメーカー連合体の研究成果を検討し、さらに問題点について検討を指示する必要がある。これに対しメーカー連合体はその内部で十分な議論を行い、それに伴う検討作業を実施し、必要とあれば追加研究計画を提案する等、最終設計に向けて地道な努力を積み重ねていくことが求められる。
この研究開発結果は原子力委員会の方針に従い、2015年頃を目標に提示し世に問うことになる。その結果をみて、国はこの実用化像の適性を評価し、電力会社の評価をも聴取して、高速増殖炉の信頼性・経済性を確認し、それに続く研究開発計画を示すことが必要である。
この評価結果に基づき、JNCはプラント性能実証のため、さらなる実証試験等の研究を続けることになろう。そして、建設主体は実証炉建設の実施に向けて前進することになる。
3. 再提言のまとめ
以上の検討結果に基づき、各関係機関の役割分担を下記の通り提案する。
* わが国のエネルギー・セキュリティーについて責任を負う。
*
高速増殖炉の開発方針を明らかにすると共に、開発資金を国が出すことを明確に示す。
*
核燃料サイクル開発機構、電力、メーカーの協力を得て、実証炉建設の体制作りについて検討する場(「高速増殖炉実用化検討委員会」=仮称)を設け、早期に最適な組織体制設立に向けた指導を行う。
*
2015年に予定される、実用化像を評価し、それ以後の研究開発活動の進め方を明確に定める。
* 「もんじゅ」を実証炉開発のために有効活用することを計画し、実施する。
* 実証炉の基本設計に必要な研究開発を強力に推進する。この研究開発計画は電力・メーカーが実証炉の設計に必要なものとすることが必要である。要望を十分反映したものとするための方策を検討する。
*
国の要請に応え、高速増殖炉実証炉建設の建設主体の整備に努める。
*
建設主体が立てるプラント計画に織り込むべき要求を明確にする。
*
設計とそれに基づく建設コストが明確になり、実証炉を建設することが決定された場合には、必要に応じ応分の資金協力を行う。
*
実証炉建設に向けてあらゆる準備活動を行う。
*
JNCに蓄積されてきた高速増殖炉関連の知識、データベースを収集・整理する。
*
建設コストの目標値、稼働率、許認可性等を定め、設計方針と設計目標を明らかにする。
*
実用化像の作成に対して責任を持つ。
*
国により実証炉建設の方針が明示された場合、実証炉建設に向けて万全の態勢で業務を遂行する。
* 国および電力の要請に応え、一致協力して、高速増殖炉実証炉開発が一本化された責任体制のもとに設計・建設が受注できる態勢作りを行う。
* JNC及び建設主体の注文に応じ、信頼性・経済性に優れたプラントの建設に向けて、全力を挙げて研究開発、及びプラント計画およびプラント設計を実施する。
* 実証炉建設が決った場合、その受注に向けて最善の努力をする。
以上
2005年3月 日
エネルギー環境Eメール(EEE)会議 及び
エネルギー問題に発言する会の
有志会員一同
(以下に全賛同者の氏名を列記する。)