原子力は「持続可能なエネルギー」か?
石井吉徳先生がご紹介のBusby氏の論文を読むと、彼が化石燃料が枯渇した後のことを心配して、代替エネルギーに「持続可能」を要求している事が読み取れます。丁度、私が原子力を始めた頃、化石燃料資源の将来について同様の議論があったことを思い出します。「地球に生物が生まれて以来、営々として蓄積して来た化石燃料を、今の勢いで消費すれば高々二三世紀で消耗してしまうだろう。化石燃料に代わるエネルギーが必要である。原子力がうまく利用できれば人類は化石燃料に代わるエネルギーを手にする希望がある。」と言う議論でした。あれから半世紀以上が経ち、いよいよ石油の寿命も先が見えて来たのに、我々はまだ彼の言う「持続可能なエネルギー」を手にしていませんから、彼の心配も尤もです。
Busby氏は、石油を全て原子力で置き換えると120万KWの炉を20,000台動かす必要があるが、そのためには、現在の140倍の出力と年間460万ノウランが必要であるがそれは不可能だと言っています。石油の全てを現在の技術で原子力に置き換えることを考えている人に会ったことがありませんが、彼は原子力が地球温暖化の防止に答えられないという事を示すために誇張して言っているように思えます。
原子力のエネルギー源としてのポテンシャルを石油のそれと比較するには、ピーク時の供給力ではなくて、むしろ夫々の確認埋蔵量をエネルギー量で比較して見る方が分かりやすいと思います。ウランの確認資源は317万トンで、その包蔵エネルギー(全部核分裂するとした場合)6.8E19Kcalで、石油の確認埋蔵量1兆バーレルの包蔵エネルギー1.62E18 Kcalの約40倍となりますが、軽水炉ではウランの包蔵エネルギーの0.5%を利用できるに過ぎません。従って、ウランの確認資源を全て軽水炉で利用したとすると3.4E17Kcalで、石油エネルギーの20%に過ぎません。Busby氏が彼の言う「持続可能なエネルギー」と見なさない根拠と言ってもよいでしょう。
そして、その事が軽水炉のエネルギー利用効率の悪い点を改善する努力の根拠でもあるわけです。もし、高速増殖炉が実用化されれば、その利用効率は軽水炉の60倍に達すると評価されており、その場合の利用可能エネルギーは石油のそれの12倍となり、Busby氏といえども「持続可能エネルギー」と認めるのではないでしょうか。高速増殖炉の開発に多大の人材と資金が投入される所以です。
更に、小野章昌氏が述べているように、ウラン資源は石油の場合とは異なり、エネルギー価格の上昇に伴う需要量の増大とともに品位の低い鉱床が採掘の対象となり、資源量は更に増加すると期待されます。
勿論、軽水炉が主流の原子力であっても、化石燃料を部分的に代替するエネルギーとしての原子力の価値が否定されるわけではありません。そもそも無資源国のわが国が原子力開発を選択した最大の理由は、エネルギーセキュリティの確保にあったわけで、石油価格の高騰によって、その選択の正しさが立証されると考えます。
原子力以外にも石油代替エネルギーには多くの候補が挙げられていますが、原子力以外にBusby氏のいう「持続可能なエネルギー」の候補は見い出せません。我々は、原子力を含む可能な全ての選択肢を追及するとともに、省エネルギーによって、高エネルギー価格時代に対処する必要があります。
なお、Busby氏はウランの需要が増加するとウラン鉱の品位が下がり、採掘に要するエネルギーが増加して、正味エネルギー利得が負になる恐れがあると言っていますが、小野氏も指摘されたようにこれは杞憂と思われます。Chapmanの分析でも採掘に要するエネルギーは全体のエネルギー入力の2%に過ぎず、品位に低下で正味エネルギー収支が負になると言うのは大げさです。
以上、先刻ご承知のことかも知れませんが、ご参考までに。