050311 「我が国の高速増殖炉開発に関する再提言案」(第1次案)について: コメントのお願い
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(添付ファイル)
我が国の高速増殖炉開発に関する再提言案
(第1次案05/3/12)
EEE会議有志会員一同
エネルギー問題に発言する会有志一同
<日本国にとって高速増殖炉の早期開発と実用化が必要であり、
そのためのオールジャパン体制作りが急務である>
T 再提言に至った理由と我々の考え方
我々一同は、本年1月半ばに「我が国の高速増殖炉開発に関する緊急提言」を公表し、高速増殖炉の早期開発の必要性について提言を行った。その後2月初め、原型炉「もんじゅ」は幸い地元自治体の了解を得て、運転再開に向けた改造工事の準備作業を開始するに至った。
一方原子力委員会においては、次期長期計画策定会議が2回にわたって開かれ、高速増殖炉の研究開発のあり方について審議が行われた。策定会議がまとめた「高速増殖炉サイクル技術の研究開発のあり方について」によれば、高速増殖炉開発の重要性は再認識され、開発を継続することが概ね確認された模様である。
しかしながら、推進を主張する我々の立場からみると、その議論の中に高速増殖炉を早期に開発しようという気概が感じられず、進め方に些かの懸念を感じるので、多少とも具体的な案として、敢えて再提言を行なうこととした。関係機関におかれては、この再提言をも十分勘案して、広く議論を起こし、わが国のエネルギー問題の将来に悔いのない計画を立てられることを切望するものである。
1. 我が国のエネルギー・セキュリティー:政府のシナリオは甘すぎるのではないか?
国及び原子力委員会の計画案に対し、我々の思考がなぜ違う結果となるのかという点から考えてみたい。国のエネルギー計画の基本は「エネルギー政策基本法」とその実行を規定した「エネルギー基本計画」に明示され、さらに経済産業省の諮問機関で提案した“2030年のわが国のエネルギー事情”に示されているものと判断する。
これには原子力発電を推進することが明記されている。しかし、その具体的な推進策については示されていない。政府機関の想定モデルは、世界および日本のエネルギー需給について、国際エネルギー機関(IEA)の判断に準拠し、地球資源は十分あり、開発のために資本を投下し開発努力を強化すれば2030年にも35$/バレルは十分達成可能であるとのシナリオの上に立脚しているものと想定される。
我々は世界の石油事情をもっと厳しくみるべきであると考える。世界の有力学者からも既に石油ピークは過ぎ、便利な石油時代は終わったとの警告も出されている。その兆候は、昨年暮れ以来石油スポット価格50$/バレルを再三にわたって越えていることからも十分推測されよう。政府の政策は、もし不幸にして、世界のエネルギー事情の変化により石油価格が60$/バレルはおろか100$/バレルにでもなったとしたとき、日本のエネルギー問題をどう解決するかという視点に欠けているのではないかと危惧するものである。原子力委員会における高速増殖炉の議論も2050年のエネルギー・セキュリティー問題については深く議論せず、政府の考えを追認したものと判断する。我々は、しかし、わが国のエネルギー・セキュリティーを確保するためには、石油入手の困難、価格の異常上昇に備えておく不断の準備が必要であることを強く訴えるものである。
2. 高速炉増殖開発実用化のスピード:2015年まで何もしないことになりはしないか? それでよいのか?
エネルギー・セキュリティーの確保のための最大の案件は、石油の時代の次を担うと考えられる原子力発電の開発促進と、燃料サイクルの完結である。これについても原子力委員会で既にその方向が明示されている。しかし、原子力は大型開発であるため足が非常に長く、石油価格が高騰してから開発を始めたのでは間に合わないことを忘れてはならない。
このような視点からみると、原子力委員会・次期長期計画策定会議の「研究開発のあり方について」に提示された進め方でよいのかという点に多大の疑問を感じる。
同資料によると、国は2005年度末を目標に核燃料サイクル開発機構(JNC)が各機関の協力を得つつ進めている「実用化戦略調査研究」フェーズUの成果を評価し、研究開発の方針を提示するとしている。引き続きフェーズVが「高速増殖炉サイクル技術の適切な実用化像とそこに至るまでの研究開発計画を2015年頃に提示することを目的として」行われるとしており、国は適切な実用化像と研究開発計画の検討を2015年頃から行うとしている。
原因はともかく、原型炉「もんじゅ」は、ナトリウム漏洩という高速炉の基本的な問題で、最もプリミティブなトラブルを経験したことにより、ほぼ15年にわたる停滞を余儀なくされたのである。時がたてば技術が進歩し、より優れた技術が自然に芽生えるものであろうか。決してそのような甘いものではない。この貴重な経験を糧に緊迫感と危機意識を持って一刻も早い開発を目指すべきである。
3.商用炉建設までに至る過程:あまり余裕はないとみるべきである
2015年頃以降に実用化像が検討され、その結果に基づいて実用化案が提案された場合、次のステップにどう進むのであろうか。計画案が優れたものと認められたとして、幸運にも、何れかの資金援助が出されることが決り、開発主体が決められ、実証炉を建設することになった場合、その建設主体はどのように行動するかを推測する必要がある。
建設主体は建設計画を立てることから始まるであろう。組織体制を整え、基本計画を立直し、詳細設計が始まることになる。その場合、誰の目にも優れていると考えられる研究成果は利用されるであろうが、その他の計画がフェーズU計画案通りに進められるとは考えにくい。基本設計、場合によっては研究開発や実証試験のやり直しが必要になるであろう。さらに、サイトの選定、環境調査、設置許可申請というステップを考えると、実証炉建設には実質的に30年程度は必要とみるべきであり、運転開始は2045年以降になるであろう。
その結果をみて開発が進められることになる商用炉が運転開始するのは、楽観的にみても2075年以降になると考えざるを得ない。果たして廃炉が予想される軽水炉の代替に間に合うであろうか。高速増殖炉は石油価格上昇と、軽水炉の再立ち上げによるウラン価格の高騰を予測し、早期開発を実施する必要があろう。
このような視点から考えると、商用炉の建設までにそれほど余裕はなく、JNCのフェーズVの研究結果は、可能な限り実証炉建設につながる研究開発を行うことが強く望まれる。このためには、実証炉の建設体制を早期に決め、それを中心として、調査研究を進めるべきである。
4.実証炉建設資金:国が主として負担すべきである
当然のことながら、開発体制決定の基本はだれが実証炉建設の資金を出すかということであろう。この点は前回の提言にも述べた通りであるが、「もんじゅ」の開発が順調に推移していて、かつ、電力料金体系が旧認可制度の下であれば電力業界が負担すべきであっただろう。しかし、電力自由化が進み、グローバリゼーションの動きの中、電力の経営者は株主に対してもそのようなリスクを犯す提案はできないのが現状である。まして原子力メーカーは商用軽水炉の受注もままならない状況では、次世代炉の研究に自社資金を投資する余力は全くないと考えるべきであろう。国は2050年以降の国民の生死を握ると考えられるエネルギー・セキュリティー確保のためには、大型の研究投資が必要であることを強く認識すべきである。
翻って世界の現状を見ると、高速増殖炉の開発がロシア、中国、インドという資本主義国家とは異質の国において、国家予算を投入して進められている事実に思いをいたす必要がある。原子力先進国を自負するわが国としても、国が開発資金を出して高速増殖炉の開発を進めるべきであろう。
5.建設主体の早期決定:国の補助金と電力会社中心の体制が最も現実的である
研究開発のスピードを重視する視点からみても、建設主体の早期決定が極めて大切で、研究開発はその建設主体を中心に進めるべきであることは前に述べた。
この建設主体は国の機関が当るべきであろうか。原子力分野においては初期の各種基本的原子力研究を始め、高速増殖炉の他にも新型転換炉(ATR)、燃料再処理、ウラン濃縮等の商用化前の研究開発が精力的に実施され、それなりの成果を挙げてきた。しかし、研究成果を商用化するというステップにおいては、特許問題や技術移転についての有償化問題という観点から、基本設計思想や不具合情報等の情報開示等について国(旧動燃)は極めて消極的であった。このため民間への技術移転に失敗したといえるであろう。さらに、JNCは文部科学省に属し実証炉の研究開発は実施しないことになっているとのハンデを負っている。
そのように考えると、高速増殖炉の建設は、政府が大型の補助金を出すことにより、将来商用炉の運営をすることになる電力会社が中心となり、基本設計、研究開発のフォロー、プラント設計、用地の選定等一貫した計画を進めていく方法が最も現実的であると考える。
高速増殖炉計画は当初からJNCが主体となって開発を進めてきたため、それ以外の組織では一貫したノウハウを所持していないという事情を考慮すれば、この建設主体にはJNCのプラント計画に携わってきた主力メンバーを取り込むことが極めて大切である。
6.詳細設計の進め方:メーカーは共同開発者として一致協力して事に当たるべきである
建設主体は先ずJNCに蓄積されてきた知識、データベースを収集・整理することが重要である。それと共に広く周知を集める態勢作りに努力を傾注すべきであろう。その上に立って、客観的立場に立って高速増殖炉に求めるべきニーズを集め、設計方針と設計目標を明らかにすべきである。これには心あるメーカーも参加させることが重要である。メーカーは共同開発者として、形だけではないメーカー連合体の形成が必要となるであろう。メーカー連合体は協力して開発方向を定め、設計試案を出し、建設主体に対してその結果を報告することが求められよう。建設主体はメーカー連合体の研究成果を検討し、さらに問題点について検討を指示する必要がある。これに対しメーカー連合体は十分な議論と、それに伴う検討作業を共同または協力体制のもとで実施し、必要とあれば追加研究計画を提案する等、最終設計に向けて地道な努力を積み重ねていくことが求められる。
U 再提言のポイント(まとめ)
以上の検討結果に基づき、各関係機関に対し、下記の役割分担について責任を持って対応されるよう提案する。
1.
核燃料サイクル開発機構は「もんじゅ」の有効活用をも含め、実証炉の基本設計に必要な研究開発を強力に推進する。この際、実証炉の建設に関わる電力・メーカーの要望が十分反映されるような仕組みが必要である。
2.
国及び原子力委員会は高速増殖炉実証炉建設の重要性に鑑み、核燃料サイクル開発機構、電力、メーカーの協力を得て、実証炉建設の体制作りについて検討する場(「高速増殖炉実用化検討委員会」=仮称)を設け、早期に最適な組織体制についての提言を行ない、その設立に向けた指導を行う。組織作りに平行して、国に働きかけ研究開発について必要な予算を確保する。
3.
電力は国の要請に応え、高速増殖炉実証炉建設の建設主体の整備に努めると共に、応分の資金協力を行う。
4. メーカーは国および電力の要請に応え、一致協力して高速増殖炉実証炉開発の態勢作りと研究開発及びプラント設計の実施に協力する。
以上
2005年3月 日
エネルギー環境Eメール(EEE)会議 及び
エネルギー問題に発言する会の
有志会員一同
(以下に全賛同者の氏名を列記する。)