---------------------
<以下、黒字部分は石井氏のコメントで、これに対する柴山氏のコメントは青字部分>
「もんじゅ」の運転は、発電プラントとしての信頼性の実証が主目的ではありますが、その中には、プラント全般の信頼性の他、燃料の性能・健全性、炉心核熱設計の妥当性、増殖可能性の実証、プラント性能・定常及び過度特性、機器性能実証、ナトリウム取扱技術、安全性実証、保守性能、その他広範囲のものが含まれており、設計手法の妥当性の検証を含め早期に確証しておくことが望ましいと考えています。これらの大部分は実証炉設計においても直接または間接に有効となります。
似て非なる実証炉概念といわれますが、現設計は(これが妥当であると言う訳ではありませんが)「もんじゅ」の延長線上にあると考えています。少なくとも二次冷却系を有する所謂ループ型ナトリウム冷却炉であり、中間熱交換器とポンプの一体構造、二重管蒸気発生等若干異なる面はありますが系統的には殆ど同一であると考えます。なお、現設計はJNCが実証炉設計の一案として提示されたもので、今後今回の提言にも記されているように関係機関などの十分なレビューを経て最終仕様として決定されるものと考えています。
(2)実証炉の目標
高速増殖炉の発電コストは軽水炉に比肩しうるものとしているが、その見通しはあるのだろうか。MOX燃料より高いであろう燃料費、Naを扱わなければならない運転保守費、稼働率などどれを見ても軽水炉並みにする手段、方策は何も語られていない。
かろうじて建設費だけがJNCの実証炉計画で低減策を示しているが、これとて設備のコンパクト化による物量低減で達成するという神話を信じているに過ぎない。
要するに何の見通しもないままに発電コストを軽水炉並みにするなどは余りにも無責任な発言である。
従ってこの提言では発電コストの見通しと、それが経済的に成り立つ時期(軽水炉発電コストが上がることによって)の見通しを、当面の当事者であろう原子力委員会が早い時期に打ち出すことを要望するにとどめるだけで良いのではなかろうか。
私自身は以前EEE会議でも意見を述べましたが、高速増殖炉の目的はエネルギーの自立にあり、軽水炉と競合する形で導入されるものではないと考えています。勿論建設費、運転保守費、燃料サイクル費などを含めた発電コストが安いことは望ましいことであり、特に軽水炉並にできれば早い段階からの導入が可能となりますが、仮に若干高くてもウラン需給状況(ウラン資源の有無だけでなく価格を含めて)によって導入の時期が決定されると考えます。その意味で経済性目標を軽水炉並として努力することは望ましいと考えていますが、どの程度まで許容できるかは今後更に検討が必要であると考えます。
(3)実証炉の基本仕様
設備のコンパクト化による建設費低減をねらってのJNCの技術開発を追認しているが、開発内容はコンパクト化されてはいるが簡素化からはほど遠く、何れもコストダウンではなくコストアップに繋がっている。
コストはすべからく物量の多寡によると言うのは単なる観念論であって、実際には対象設備それぞれでコスト発生要因に違いがあることを理解していない証拠である。
長年軽水炉で建設費低減を推進してきた立場から言えば、物量低減がコストダウンに寄与するものは機械系で言えばバルク材(配管サポート部材や埋め込み金物等)の低減と運転実績に基づく弁類、補機類の削減や系統構成の簡素化即ちプラント設計分野の合理化である。
なお現在JNCがコンパクト化を狙っているような主機のコストダウンは如何に作りやすい設計にするかがポイントである。
従って実効ある建設費低減を求めるのであれば、実証炉のプラントレベルの試設計を最優先で行うと共に「もんじゅ」諸設備の運転実績を得ることである。
主機の設計は徒に新規技術をもてあそぶのではなく、先ずは信頼性・保守性の向上を念頭におい手従来技術の延長線上での改善を図るべきであって、新規技術による新概念設計はあくまでも二次的な位置づとすべきである。
又実証炉建設の最終決定にはメーカーによる建設費見積が必要条件とされているが、この時点は単なる参考見積の域を出ない状況下にあることから可成りのリスクヘッジされた見積額が提示されるであろうから、この引き合いは無意味である。
それよりは実施主体体制の確立を急がせ、そこに建設費見通しの責任を持たせるべきである。プラントメーカーの抑えはプラント一括の競争入札制度を導入する事が最大の抑止効果である。
本項については同意する点も多々あります。「もんじゅ」の建設費増加の一因として一次冷却系の配管の引き回しが長く、プラント配置面積が増大したとの指摘があり、配管短縮のために中間熱交換器・ポンプ一体型を検討したものと推察されますが、これが全体的にどのようなコストダウンに繋がっているかに付いてはもう少し検証の必要があります。そのためにも石井氏の指摘通り「もんじゅ」(諸設備を含めて)の運転実績を得ることは有効ではないでしょうか。
(4)実証炉の建設スケジュール
実証炉の運開を今から20年後に設定することは本気で実証炉を実現する意欲を疑わせるものである。
本当に必要であるならば10年後に設定するくらいの意気込みを示すと共にそのための問題点と解決策を示す必要がある。
例示されているロードマップは本来並行作業であるべき実施主体設立や立地要請と基本仕様決定から運開までのアクティビティーを全てシリーズに繋いでいるだけで、そこからはロードマップとしてのシナリオは何も読み取れないし早期完成の工夫もない。
「もんじゅ」の実績反映の時期、Pu必要量の確保と燃料製作工程を加味した上でクリティカルパスは何々であるかを選定すると共に安全審査や建設の期間を短縮したロードマップを策定すべきである。もしそれが出来ないのであればロードマップの例示は見合わせるべきであろう。
現時点で建設を決定したとしても10年での運開が無理なことは石井氏も十分承知されているはずです。ロードマップについては20年後運開でもあまり時間的余裕がないことを示すために例示の形で記載しましたが、他の方からも例示の意味についての御意見もあり、最終案では(例示により既に目的は達成されており)例示は取り止めたいと考えています。
(5)国際協力の有効活用
国際協力の有効活用は一般論としては否定するものではないが、前章までの「もんじゅ」の早期運転再開および実証炉の実現方策との関連性は何処にあるのであろうか。
以下に疑問点を上げておくが、何れにしろ論理の整合性がないままに「国際協力の有効活用」が一人歩きしている感は否めない。
・多国間研究開発計画への参画および二国間協力計画の有効活用ではそこから何を得ようとしているのか、又それらの成果がないと実証炉の建設を始めとする開発計画に齟齬を来すことになるのか。
・「もんじゅ」の運転目的は世界の規範となるべき安全性、経済性その他の実現を目指すことなのか。
・実証炉の開発・建設は国際協力の下に進めるべきなのか。
国際協力については当会議内でも十分な議論が行われないまま、文章が先行しているとの印象は私も持っています。今後の開発は一国のみでなく国際協力によって効果的に進めること自体は異存がありませんが、何を目的にするか、どのような形態が望ましいか等についてはもう少し議論が必要ではないかと思います。