EEE会議(Re:プルトニウムや高濃縮ウランを国際管理下に:IAEA事務局長の重要提案)..........03.11.17
国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長が今月初め国連総会で「プルトニ
ウムや高濃縮ウランを国際管理下に置くことを検討すべし」との提案を行なったこ
とは、その後国際的に反響を呼んでおりますが、同提案について豊田正敏氏から
次のようなコメントをいただきました。ご参考まで。
なおエルバラダイ事務局長の年次報告演説は、11月6日付けのメールでその概要
をご紹介してあります(本メールの末尾に再録)。
--KK
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IAEAのエルバラダイ事務局長の核転用可能な核物質を国際管理下に置くこと及び、
使用済燃料や放射性廃棄物の多国間による管理・処分についての提案は、現在
問題となっている北朝鮮、イラク、イラン等に対してIAEAが遭遇している困難な問題
の解決、即ち、一層増大する核拡散の脅威を取り除くための有効な手段とはなりえ
ないのではないかと考える。問題は、IAEAの核拡散防止に対する取り組みが、これ
らの国での核開発の疑惑を確認する手段が無く、これらの国からの自己申告によら
ざるを得ないこと、疑惑解明のための査察が、強制的に行えず、これらの国の同意
が必要なこと、及び査察を行うことが出来たとしても、有効な査察が出来る保証が
ないことなどである。これらの問題をどのように解決するかについて、真剣に検討す
ることが先決の課題であるが、IAEAの査察権限の現状から見て、悲観的にならざる
を得ない。強制力のある強力な国連軍の創設などが必要であろう。
同氏の「民間(非軍事)原子力計画における核転用可能な核物質(分離されたプルト
ニウムと高濃縮ウラン)の生成を制限するとともに、今後、再処理と濃縮を多国間管
理下の施設においてのみ行う」という提案は、それなりに意義のある提案ではある。
具体的方法としては、「地域核燃料センター」などの新たな制度を設けなくても、現
在
既にIAEAの査察を受けて運転または建設している施設の他に、新たに、施設の建設
を希望する国は、IAEAの許可を必要とすることにより対処できると考える。この際、
核拡散防止の観点から、これらの施設が増加することは極力抑えることを原則とす
べきである。また、IAEAの許可無く、再処理及び濃縮の技術開発を行うことを厳禁す
べきである。
しかし、まだ46ヵ国がNPTに基く保障措置(核査察)協定をIAEAと締結しておら
ず、
追加議定書についてはまだ150ヵ国がこれを発効させていない現状から見て、
このような提案の国際的合意が得られる見通しは暗いと考える。
また、同氏の「使用済燃料や放射性廃棄物の管理・処分を多国間方式で行なう」と
いう提案は、核拡散防止に直接関係はないが、もし、実現出来れば望ましい。特に、
直接処分場の確保が難しく、高レベル放射性廃棄物処分量が少なく、処分費が高く
つく国、例えば、スイスにはこのような考えがある。しかしながら、スイスがこのよ
うな
考えを表明した時、ドイツやスウェーデンは直ちに、他の国の高レベル廃棄物を受
け入れるつもりはないと反論している。しかし、国際的には、次のような他国の高レ
ベル廃棄物の受け入れの計画が考えられたこともある。
(1)ロシアの原子力省とMINATOMは、自国の再処理プラント拡張のための資金獲得
のために、スイスの電力会社に使用済燃料とガラス固化体の最終処分サービスの
提供を申し入れ、スイスの電力会社との間で意図確認書を交わした。この確認書に
は、スイスの高レベル廃棄物2000トンを受け入れ、処分または再処理し、廃棄物は
ロシアに止めるというものである。このためには、両国の法律の改正を必要とする
が、
政府の承認は得られなかった。
MINATOMは米国企業とも接触し、核弾頭のプルトニウムの処理のための資金を獲得
するため、台湾、韓国、その他アジア諸国の使用済燃料を受け入れ、これを貯蔵す
るという提案をした。この所蔵施設は、A-hausと同じキャスク貯蔵を考えている。
これも実現の見通しは得られなかった。
(2)オーストラリアのパンゲア・リソーシズ社が、イギリス(BNFL)、スイス(Nagra)、
カナダ、オランダなどの機関と共同で、国内に40年間に75000トンHMの使用済燃料
とHLWの他、原子炉解体に伴うILWを世界各国から受け入れるため、地表5平方km、
地下(深度500m)20平方kmの面積を占める内陸処分場と専用の港と鉄道を計画した
が、オーストラリア政府と地方議会の承認が得られなかった。そこで、同社は南アフ
リカ、ナミビア、南アメリカ南部などで検討することにしている。
このように、この問題は議論の段階ではなく、どのようにして実現するかの段階であ
るが、他国の核のゴミを引き受けることについて国民の間に極めて強い拒否反応が
あるので、実現は容易ではなく、IAEAによって取り纏められる問題とは考えられな
い。
わが国としては、自国で発生した廃棄物は自国で処分するとの考えで進めることと
すべきであるが、一方、このような国際的動向にも注意を払うべきであろう。
以上
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Original Message -----
From: "Kumao KANEKO" <kkaneko@eeecom.jp>
Sent: Thursday,
November 06, 2003 9:43 AM
Subject:
EEE会議(プルトニウムや高濃縮ウランを国際管理下に:IAEA事務局長の重
要提案)
> 皆様
>
>
目下ニューヨークで開催中の国連総会で11月3日、国際原子力機関(IAEA)のエル
バ
>
ラダイ事務局長が年次報告演説を行いました。
>
>
この報告では、まず、現在全世界の発電量の16%が原子力発電であること、建設
中
>
の原子炉33基のうち20基がアジアであること、米国では10基の原子炉の寿命
が
>
60年に延長され、さらに多くの炉についても延長申請が行なわれていること、原
子
>
力平和利用の技術面(とくに非発電分野)でいろいろな進展がみられることを等々
を
>
概説したのち、核拡散防止問題に関しては、とくに核テロの危険性に対処するため
核
>
物質の物的防護措置を一層強化すべきこと、まだ46ヵ国がNPTに基く保障措置
(核
>
査察)協定をIAEAと締結しておらず、追加議定書についてはまだ150ヵ国がこれ
を
>
発効させていないこと等を指摘し、IAEAの権限が真に普遍的なものからほど遠いの
は
>
甚だ遺憾であると述べています。さらに現在国際的にホットな問題となっている北
朝
>
鮮、イラク、イラン等に対する核査察に関しては、IAEAがその任務を遂行する上で
>
数々の困難に遭遇しているとして、これら各国の協力姿勢を強く呼びかけていま
す。
>
>
さらに事務局長は、一層増大する核拡散の脅威に効果的に対処するために、次の2
つ
> の具体的な提案を行なっております。
>
(1)民間(非軍事)原子力計画における兵器転用可能な核物質(分離されたプル
ト
>
ニウムと高濃縮ウラン)の生成を制限するとともに、今後再処理と濃縮活動は多国
間
>
管理下の施設においてのみ行なわれるようにすること。
>
(2)現在50カ国以上が使用済み核燃料を一時的な保管場所に貯蔵しているが、
す
>
べての国が処分に適した地質条件を備えているわけではないので、これらの使用済
み
>
燃料や放射性廃棄物の管理・処分を多国間方式で行なうようにすること。
>
>
この2つの提案は、今後国際的に非常に重要な意味を持つものと思いますので、そ
の
>
部分の原文(英文)を以下に抜粋しておきます。
>
> In light of the increasing threat of
proliferation, both by States and by
> terrorists, one idea that may now
be worth serious consideration is the
> advisability of limiting the
processing of weapon-usable material
(separated
> plutonium and high
enriched uranium) in civilian nuclear programmes - as
> well as the
production of new material through reprocessing and
enrichment -
> by
agreeing to restrict these operations exclusively to facilities under
>
multinational control. These limitations would naturally need to be
>
accompanied by appropriate rules of assurance of supply for
would-be
users.
>
> We should equally consider multinational
approaches to the management and
> disposal of spent fuel and radioactive
waste. Over 50 countries currently
> have spent fuel stored in temporary
locations, awaiting reprocessing or
> disposal. Not all countries have the
appropriate geological conditions for
> such disposal - and, for many
countries with small nuclear programmes, the
> financial and human
resources required for the construction and operation
of
> a geological
disposal facility are daunting.
>
> Taken together, these proposals
in my view would provide enhanced
assurance
> to the international
community that the sensitive portions of civilian
> nuclear fuel cycle
programmes are not vulnerable to misuse.
>