EEE会議(余談: 中国の有人飛行船「神舟」と日本の対中ODA)........................................031026
中国の有人宇宙飛行成功のニューズを聴いて複雑な思いを抱いた日本人は
少なくないと思います。今朝拙宅に舞い込んできたあるメルマガに次のような
文章が載っていました。小生のコメントは敢えて加えません。ご判断は皆様に
お任せします。
--KK
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<ハイテク中国、袖の下>
有人宇宙船にも優るとも劣らないハイテク・システムで、
日本の経済援助は宙に消えていく。
(H15.10.26)
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■1.「中国よ、おめでとう」■
"Congratulations, China(中国よ、おめでとう)"。中国
の有人宇宙船「神舟5号」の打ち上げ成功を報じた英国エコ
ノミスト誌記事のタイトルである。もちろん、ひねりの効い
た文章の多いエコノミスト誌のこと、素直なお祝いで終わる
はずはない。このタイトルのあとには、すぐこういうヘッダ
ーが続く。[1]
しかし、有人宇宙飛行の出来る国に、外国の経済援助
は不要(拙訳)。
記事では、中国が今回の有人宇宙船打上げにかけた20億ド
ル以上と推定される費用を中国が海外から受け取っている援助
総額18億ドル(そのほとんどは日本から)と対比している。
米露の宇宙開発でも莫大な費用が浪費されているが、「両国は
少なくとも自らの資金を使っている。しかし、中国は他国の寛
大さに頼っているだけだ」と批判。「AIDSやSARSの対
策など、他にやるべきことがあるはずだ」という中国の科学者
の意見を紹介している。
中国は自国民の生活水準向上には日本などからの援助を使い、
浮いた費用で宇宙開発をしている。そんな事を許している日本
は「寛容」どころか、「間抜け」な国だと思う読者も少なくな
いだろう。
しかし、もうひとひねりして言わせて貰えば、日本の援助の
相当部分は中国の貧しい民には届かず、途中で宙に消えてしま
うのである。どこにどう消えてしまうのか、いくつかの実例を
見てみよう。
■2.「すごい空港だねぇ。」■
日本人のお年寄りのツアー一行が北京空港に降り立った。お
ばあちゃんたちは空港の豪華さに驚いた。「すごい空港だねぇ。
成田空港よりも上かもしれない」「これからはやっぱり中国だ
ねぇ。日本の若い人たちは大変だね。かわいそうだね。」[2]
おばあちゃんたちは、この豪華な北京空港に、日本の「大変
な、かわいそうな」若い人たちの血税が使われているのを知ら
ないだろう。北京空港の建設費用として、日本の円借款300
億円が供与されている。これは建設資金の40%にあたる。こ
の援助は中国では感謝されるどころか、ほとんど知られていな
いという問題は、[a]で述べた通りである。
北京は2008年のオリンピック誘致に成功したが、その都市イ
ンフラの多くは日本の援助によって作られた。過去20年の間
に日本が注ぎ込んだ援助総額は、北京だけで約4千億円。たと
えば、航空管制システム210億円、北京首都圏に乗り入れる
鉄道の拡充870億円、市内地下鉄網200億円、市北部の揚
水発電所130億円、長距離電話網72億円、国家経済情報シ
ステム240億円、上水道整備155億円等々。[3,p46]。
ODA(政府開発援助)とは、そもそも「開発途上国の離陸
へ向けての自助努力を支援することを基本とし、広範な人造り、
国内の諸制度を含むインフラストラクチャー(経済社会基盤)
及び基礎生活分野の整備等」を趣旨としていた[4]。
北京の豪華な空港や光ファイバーによる電話網や国家経済情
報システムなどに金をつぎこむよりも、アフリカでのAIDS
対策や農業支援に使った方が、よほど人類全体のためになるし、
ODAの本来の趣旨に添うはずだ。
■3.風俗営業に使われたODA施設■
しかし問題はさらに根が深い。たとえば、こんな事例がある。
「日中交流施設で風俗営業 無償援助、北京に建設 日本
大使館が抗議」(産経新聞、H12.10.11)
日本の中国向けの政府開発援助(ODA)のあり方が論
議を呼んでいるが、日本の無償援助約百億円で北京市内に
建設された「日中青年交流センター」の構内に女性がサー
ビスにあたる風俗営業ふうのカラオケクラブが開かれ、北
京の日本大使館が援助の趣旨に逸脱しているとして抗議し
たことが十日、明らかになった。
日中青年交流センターは「日中両国の二十一世紀の青年
の友好を深めるための施設」として八四年、当時の中曽根
康弘首相と胡耀邦共産党総書記との間で日本の無償援助百
一億円を主体に建設が決まった。(中略)
しかし日中関係筋が十日、明らかにしたところによると、
同青年交流センター構内にことし春から「S」というカラ
オケクラブがオープンし、女性ホステスたちが個室で客の
横に座ってサービスするという風俗営業を開始した。同時
にホステス用の臨時宿舎までが構内に新設された。同店は
北京の日本人や韓国人の間でセックスがらみのサービスを
する店として評判が広がり、日本大使館では九月中旬、同
センターを管理する中華全国青年連合会(全青連)に口頭
申し入れの形で善処を求める抗議をしたという。
とんだ「交流センター」だが、こんな事が行われるには、そ
れなりの背景がある。[2]の著者、青木直人氏はこの日中青年
交流センターを'89年の建設当時から5回訪れて、その実態を
報告している。
■4.それでは高くなりますよと何度もアドバイスしたのですが■
'89年10月、青木氏は建設中の交流センターの工事現場を
訪ねた。設計と外装は日本側が、内装は中国側で中華全国青年
連合会(全青連)が受け持った。青木氏がインタビューした日
本人技術者はこう語った。
ここではモノがなくなるんです。建設資材が、です。日
本の感覚で外に置いておくと、翌日にはまずなくなってい
る。ええ、中国側の現場作業員が持ち出すんです。盗んだ
資材は自宅用に自分で使うか、売り飛ばすか。そのどちら
かです。
後進国ではよくある事だが、問題はその先である。
日本でこうした盗難や紛失がある場合、常識的には当然
その製造メーカーに再注文を出します。でも、センターは
そうではないのです。中国側の中華全国青年連合会のほう
が、付き合いのある日本商社を通して発注してほしいと強
硬なんです。それでは高くなりますよと何度もアドバイス
したのですが、、、[2,p40]
すったもんだの末に中青連の言うとおり、商社を通じて購入
せざるをえなかったという。当然、工事費用は膨れ上がる。中
青連が特定の商社にこだわるのは、キックバック(賄賂)が目
的なのだろう。
■5.「見事にとられましたね。中国に」■
'91年5月、センターは正式にオープンした。日本の青少年
が中国で安く宿泊できるホテル「二十一世紀飯店」、イベント
ホール「世紀劇院」、さらにプールなどからなる大規模施設で
ある。青木氏が3年半後の'94年秋に再訪すると、、、
驚いた。建物の外壁にはもう亀裂が走っていた。センタ
ーの入口にある会館案内用のプレート、バス停留所のポー
ルにも赤錆が浮かんでいる。敷地の奥に作られた建物の外
壁は剥離が始まっている。
いくつかの日本の大手旅行代理店で聞いてみると、日本人客
用にこの「二十一世紀飯店」を勧めている所は、一社もなかっ
た。「はっきり言って内部の造りは雑です。お客のクレームを
予想すると、ちょっと使おうという気になれない。」
青木氏が泊まった部屋でも、湯船の栓を抜いたら、お湯がい
きなりトイレの方に吹き出したという。調べてみると配水管が
外れていて、そこからお湯が漏れて出る。あとでホテル内のテ
ナントで働く日本人に話すと、「そんなんで驚いていたんじゃ、
このホテルには泊まれないわよ。」
結局、日本人は「夏休みの修学旅行生以外は来ていない」
(ホテルのフロントの言)。利用するのは「会議などで地方か
ら北京に来る共産主義団体のおのぼりさんや韓国人が中心」だ
そうだ。工事もメンテナンスも手抜きした分の利益は運営主体
の中青連の懐に入る仕組みで、日本側は運営にはノータッチ。
さらに売上げ拡大を目指して、風俗営業店まで入れたという訳
なのである。
「見事にとられましたね。中国に」 ある日本人が吐き捨てる
ように言ったセリフである。
■6.「中曽根の胡耀邦への政治献金」■
そもそも何故にこのようなセンターが生まれたのか。構想が
生まれたのは'84年。日本では中曽根政権が誕生し、中国では
最高実力者・トウ小平の後継者としてプリンス胡耀邦が中国共
産党の総書記に就任した2年後のことである。
中曽根と胡耀邦は、従来の田中(角栄)派−周恩来派閥に替
わる新しい日中間のパイプづくりを狙い、それぞれの腹心を送
り込んだ「二十一世紀委員会」を両国外務省内に作った。この
委員会が提言したのが「次代を担う両国の青年の交流スペー
ス」で、これがセンターの構想となった。
センターの運営主体は中華全国青年連合会であり、その中核
が胡耀邦の出身組織である共産主義青年団であった。すなわち、
日本のカネで施設を作ってやり、その運営利益は胡耀邦の母体
団体に落ちるという仕組みになっていた。田中派のある代議士
の言葉を借りれば、このセンターは「中曽根の胡耀邦への政治
献金」なのである。
'87年に胡耀邦は共産党内の政争に敗れて失脚したが、セン
ター建設はそのまま続けられて、出身団体・共産主義青年団へ
の遺産となった。ちなみに現在の共産党主席・胡錦濤も中青連
出身である。103億円ものジャパン・マネーで作られた「日
中青年交流センター」の「青年交流」という理想はとっくに忘
れ去られたが、「集金マシン」としては今も健在なのだろう。
■7.日本からの援助を餌に、日本企業から収賄■
日本からの援助が中国政府要人の利権に絡むという事例は、
枚挙にいとまがない。たとえば総合商社・伊藤忠は、2002年1
月、泰山原子力発電所建設の設備受注をめぐって、中国側要人
に4億円ものワイロを渡した、として大阪国税庁から追徴課税
された。この建設はODAとは別枠の、旧輸出入銀行(現・国
際協力銀行)からの低利子ローン対象案件だった。
ワイロの相手は、内外の関係者から、電力会社「中国華能国
際電力集団」のトップ・李小鵬だったと噂されている。李小鵬
は、首相を務めた李鵬の長男である。李鵬は周恩来の養子であ
り、その威光を背に電力工業部部長など電力畑を歩んできた。
その息子が電力会社のトップというのであるから、縁故主義の
見事なお手本だ。
日本からの援助はいわゆる「ひもつき」でない、アンタイド
ローンがほとんどである。これは設備や工事をどの企業に発注
するかは借りた方の自由になるものである。勢い、受注を目指
す企業からの賄賂は李親子に流れ込む。日本からの低利子ロー
ンを餌に、日本企業から莫大な賄賂を巻き上げる、というまさ
に天才的な「ファミリー・ビジネス」なのである。
■8.トウ小平一族の「ファミリー・ビジネス」■
「ファミリー・ビジネス」と言えば、トウ小平一族も負けては
いない。長女トウ林の夫・呉健常の「非鉄金属鉱業試験センタ
ー」、長男・トウ樸方は「中国肢体障害者リハビリテーション
研究センター」、次女・トウ楠は「日中友好環境保全センタ
ー」とそれぞれODA案件にからんでいる。三女・トウ榕は個
別の案件ではなく、中国で最大の対日発言権を持つ「国際友好
連絡会」の副会長であった。トウ小平の5人の子供のうち、4
人がODAに関わっているのである。
それにしても、「環境」やら「障害者リハビリ」から「国際
友好」まで、よくもまあ耳障りのよい、日本のお役人を喜ばせ
るような名前ばかり並べたものである。
長男・トウ樸方は、文化大革命時のテロで身体障害者となり、
中国での身体障害者団体の総元締めである「中国身体障害者連
合会」のトップとなった。この団体は'85、'86年に日本から約
34億円の援助を受けて「中国肢体障害者リハビリテーション
研究センター」を建設。以後、20年近くの間、日本からの無
償援助を受け続けている。
障害者連合会は資金集めと称して、傘下に総合商社「康華実
業発展公司」を作り、樸方はこちらのトップも勤めていた。そ
してこちらでも山東省の石臼所港の建設で約430億円のOD
Aを手に入れ、この巨額のプロジェクトを餌に日本企業から障
害者連合会への寄付を求めた。
康華実業発展公司は、特権を利用して無法なブローカー行為
に手を染め、市民の怨嗟の的となって、'88年には解散に追い
込まれた。障害者連合会は'95年まで、内部の会計報告を一切
してこなかったので、それまで康華実業発展公司からの上納金
や、日本からのODA、日本企業からの寄付金がどれだけあっ
たのか、どのように使われたのかは、闇に包まれている。
■9.「中国人民は中国共産党と日本企業に搾取されている」■
中国のハイテク技術は有人飛行船だけでなく、こうした天才
的な収奪システムにもいかんなく発揮されている。税金を吸い
上げられている我々日本国民はその犠牲者であるが、実は中国
の人民もある意味で犠牲者と言えるのである。
日本からのODAの四分の三は円借款である。つまり利子や
返済期間こそ有利に設定されているが、いずれ返さねばならな
い借金だ。それを中国政府の要人が上前をはねた後で日本企業
に発注がなされ、その結果、本当に必要かどうか分からない施
設が作られる。「そんな事なら自前の資金で、本当に必要とす
る施設だけを、中国企業に作らせた方が、中国のためだ」、
「中国人民は中国政府要人と日本企業に搾取されている」とい
う論法も成り立つのである。
かつての中国は「たとえズボンをはかなくとも」という覚悟
で核兵器開発をしてきた[b]。その続きが今度の有人宇宙飛行
である。これは何百万人餓死しようが核ミサイルを開発する、
という北朝鮮と本質的には同じで、選挙のない国の軍事独裁政
権は民意を押さえつけて何でもやりたい事ができるのである。
そういう国への援助は独裁政権を太らせるだけで、その国の人
民の真の福祉にはつながらず、かえって怨嗟を招く恐れもある。
そういう視点からも、対中ODAを見直すべきである。
(文責:伊勢雅臣)
■リンク■
a. JOG(146) 対中ODAの7不思議
軍事力増強に使われ、民間ビジネスに転用され、それでいて
まったく感謝されない不思議なODA
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h12/jog146.html
b.
JOG(186) The Globe Now: 貧者の一燈、核兵器
9回の対外戦争と数次の国内動乱を乗り越えて、核大国を目指
してきた中国の国家的執念。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h13/jog186.html
■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
→アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
1.
"China's space programme Congratulations, China"
The Economist, Oct 16th
2003
2. 青木直人、「中国ODA6兆円の闇」★★、祥伝社黄金文庫、H15
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4396313306/japanontheg01-22%22
3.
古森義久、「日中再考」★★★、扶桑社、H13
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4594031579/japanontheg01-22%22
4.
政府開発援助大綱(旧)
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/docs/19920630.O1J.htm
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