EEE会議(提言:原子力体制の発想の転換について)...............................................2003.8.25


ある特別会員(匿名希望:ハンドルネーム:IIIII)から、次のようなメールをいただ
きました。これも、EEE会議タスクフォースで取り纏めるべき緊急政策提言の素案
(たたき台)の1つとなるのではないかと考えます。 皆様のご高評を期待しま
す。--KK

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          <原子力体制の発想の転換についての提言>


 歴史を振り返ってみると原子力黎明期は、敗戦と被爆という辛い経験の下での平和
利用という大きな政治的決断の後は、基本的には科学技術が先導し社会が期待と喝采
を送る時代であった。そこでの原子力委員長の役割は予算の獲得であり、戦後復興の
苦しい時代に原子力予算という形で見事に実現した。一般に黎明期の次の時代は、技
術の産業化、商用化が進み、本来ならば社会全体がそれまでの研究開発投資の回収に
動く。そうした社会の要請にそれぞれの科学技術分野に携わる人々は必死になって適
正な答えを用意しようとする。原子力分野では、総合科学技術としての基盤を確固た
るものにするため、官と産の合理的かつ戦略的な体制つくりが必要であった。しかし
ながら、日本にとってのこの時期は高度成長という空前の右肩上がりの時代で、他分
野との厳しい競争にさらされることもなく、その総合科学技術としての存立基盤を強
化することもなく、関係者はバブリーなキャッチアップ型の研究開発に走ったり、小
手先の辻褄合わせに奔走して、無益な時間を過ごしてしまった。本来、多面的の科学
技術分野から構成される原子力技術にとって足元の不安は致命的である。JCO事
故、「動燃問題」、「東電問題」は、この段階での制度・体制作りの失敗の大きなつ
けである。

 現在は、政、官、財、産、学、メディアも、中央も地方も、非専門家も専門家さえ
もが原子力に厳しい視線を向ける厳しい時代である。単純に考えてみても、この逆風
の中で原子力の平和利用の先頭に立つことを期待される原子力委員会の役割は極めて
重く、また、その本来の職責を果たすためには関係者の強力な支援を必要とする。省
庁再編、独立行政法人の統合、整理も乗り越えるべき個別課題であるが、グローバル
には環境問題の顕在化、南北格差の増大、政治的なコンフリクトの増大等々の問題が
あり、日本が科学技術の成果活用の仕方を範例として示さなければならない時代であ
る。自然が幸運にも用意してくれた核エネルギーは世界にとって必要不可欠のエネル
ギー源である。これを人類共通の財産として大事に利用していくためには、科学技術
の在り方や個々人の価値観の違いを直視しながら、多種多様な意見をもち行動をする
人々を束ねて、核エネルギー利用の範例を人類共通の知的財産として世界に提示する
必要がある。その意味で、これまで以上に国際性、先見性のある指導力、実行力、組
織力、政治力が必要となる。
いつの時代も優れた科学者、技術者の多くはナイーブである。自分の興味に向かって
資金集めに猛進し、相も変わらず原子力黎明期と同様の古典的なパラダイムを追いか
けラッパを吹き鳴らしている。

http://www.ne.jp/asahi/n/kinoko/noITER.html
http://www.nal.go.jp/jpn/newsletter/y2000/m02/p02.html

 総合科学技術会議の役割の一つは、そうした科学者、技術者の夢の受け皿で、膨大
な要求事項の調整である。また世間は、こうした要求がナイーブで鮮度が高いだけに
容易に理解した気分になり、喜んで受け入れ、喝采の拍手をする。何時の時代も世間
はトレンディーでファッショナブルなのが好きなのである。本来ならば、国策として
の調整には哲学と史観がなければならないが、総合科学技術会議の関係者は科学技術
と経済・社会との関係の理解においてさえ、安直な線形モデルに支配され、この複雑
な時代を乗り切るための徹底的な思考を試みていないように思える。いずれも既に功
なり名を遂げた名将であり、深い考えと読みがあってのことと思うが、過去の成功体
験への郷愁や過信があり、加えて未来への熱い思いが希薄であることから、新しい時
代を切り拓くべき総合戦略としての迫力に欠けることは否めない。

 原子力委員会と比較して隣の芝生である総合科学技術会議は総理も出席し注目度も
高い。世間は、原子力分野を、問題点も多く、科学技術としても古色蒼然とした雰囲
気の分野として見ている。隣の芝生は良く見える。我々、原子力関係者が心に刻むべ
きは時代の変化であり、新しい哲学、史観を備えた時代の創出である。日本の未来
は、現在の総合科学技術会議が華とする先端科学技術、夢のある科学技術だけが先導
する時代ではなく、地道に積み上げられた科学技術の成果の活用を社会が主導する時
代である。原子力分野の課題は、以上の時代認識をベースに人類社会の福祉と国民生
活の水準向上を考え、核に関する国際政治、国内政治の適切なマネージメントを行
い、核エネルギーの平和利用のための技術的、組織的基盤をより一層強固にすること
である。

 現原子力基本法によれば、「原子力委員会の役割は、原子力の研究、開発及び利用
に関する事項(安全の確保のための規制の実施に関する事項を除く。)について企画
し、審議し、及び決定する」とされている。今世紀の原子力関係者への時代の要請
は、日本国民の叡智を結集して国際、国内、地域政治、科学、技術、産業、経済、環
境等々の現状と将来を多面的に捉え、世界に対する使命感を持って核エネルギー利用
に関するビジョンを示し、戦略的に行動することである。しかしながら上記の基本法
は、原子力委員会を例年の予算配分を守ることに汲々とし、肥大化した関連組織を支
えるという、矮小化した目的達成のための組織として位置付けてしまっている。一
方、エネルギー資源枯渇に関する“狼が来た”型の主張は、中国の古書やマルサスの
人口論の昔から、繰り返されてきた。

http://www8.cao.go.jp/cshttp://ecosocio.tuins.ac.jp/ishii/opinions/koizum_oi
l.htmtp/gaiyo/cstpgaiyo.pdf

 いよいよ来たかとも思う。刺激的な文章で条件反射的に賛成票を投じたくなるが、
我が国にグローバルな視点から合理的な判断を行えるほどの知的基盤(データ、知
識、人材、哲学、史観等)が整備されているかといえば、甚だ心もとない。残念なが
ら日本のそれは百戦だけでなく一戦で粉砕される程度の準備しかない。

 緊急を要する原子力関係者の役割は、国の存亡に関わる科学技術を、トレンディー
な先端科学技術の一つとしてではなく、確固たる基幹技術、基幹産業として国民に提
示し、その可否を問うことであり、原子力委員会の仕事は厳しい逆境の中でこその欲
しいリーダーシップの発揮である。繰り返しになるが、その役割は、国の叡智を結集
して国際、国内、地域政治、科学、技術、産業、経済、環境等々の現状と将来を多面
的に捉え、世界に対する使命感を持って核エネルギー利用に関するビジョンを示し、
戦略的に行動提案をし、国の施策に反映させることである。不断の目標は、そうした
努力を通して、将来、世界を背負ってくれるような使命感、責任感、哲学を持ち、そ
の文脈で引き続き日本の将来に責任を持つべき若手(真に政治家たるべき人材)を育
てることにある。

 「骨太の改革」とのキャッチコピーが先行している。科学技術担当大臣、原子力委
員会、原研・JNC統合、大学法人化を始めとして、官、学、産他、各界で変化が起
こりつつある。それぞれのポストの在るべきミッションに従って各界からの候補を充
分吟味し、器量を総合的に判断して最適任者を任用し、周囲を実力者で固め、強力な
体制を確立するのが、本来の「骨太の改革」であろう。労多くして報われることの少
ない仕事には有能な人材は寄り付かない。大衆迎合の対処療法や局地戦ばかりが目立
つ原子力分野の昨今であるが、本格的な機動力のある体制つくり、大局的な視点とそ
の結果としての人の集め方等、関係者の器量、構想力が試される正念場である。

 下記の基本法を読み直し、昨今の日本の情況を斟酌すると、自らも含め関係者の緻
密で粘り強い継続的な努力が必要なことを痛感している。また、国内外の諸情勢や原
子力関係者の努力の結果を総合的に判断し、場合によっては核エネルギー利用の中止
という極めて大きな政治的決定への提言も原子力委員会の重大な任務である。

http://aec.jst.go.jp/jicst/NC/kihonhou.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kagaku/kihonkei/kihonhou/houbun.htm

   <ハンドルネーム: IIIII >