東京電力の原発停止に対するグリーンピース・ジャパンの2003年夏の提言
2003年6月25日
4月15日、東京電力株式会社の運営する17基の原子力発電所が、同社によるヒビ割れ隠しなどが原因で一斉停止し、現在も15基が停止しています。これら全ての原発に対する危険性の疑いは今も消えたわけではありません。一方、この原子力発電所の停止分を補うために、火力発電が増やされています。地球温暖化の影響が顕在化しつつあるにもかかわらず、化石燃料の利用を増やしている状況に陥っているのです。
この悪循環の原因は、電力会社も国のエネルギー政策も、「放射能汚染か、地球温暖化か」という「リスクの選択」しか提供できていないということに他なりません。これはまともな経営、政策とはいえません。必要なのは「リスクの選択」ではなく、省エネと再生可能エネルギーによって「リスクの回避」をすることなのです。
そこで、原発の運転再開をせず、そして原子力にたよらないで化石燃料消費を減らしていくという展望をもって、この夏の電力需要ピークを効果的に乗りきるために、グリーンピースは以下を提言します。
I. 東京電力株式会社への提言
【この夏に行うべきこと】
- 原子力発電には問題があることを認める
電力の
"供給を安定"させるはずであった原子力発電は、実は電力"危機の原因"であった事実を謙虚に認めるべきである。
- 需要管理によって需要のピークを下げるため最大限の努力をする
危険な原子力発電所を動かさなくても、充分に需要管理ができれば電力需要のピークは乗りきれる。電力需要のピーク時に節電することで、電気料金を割引くメニュー(需給調整契約)への加入がまだ充分でないが、より加入が増えるような制度をただちに用意すること。
例)電気料金をもっと割引く、小口契約事業者や個人でも節電に協力しやすいよう加入条件を緩和する、需給調整契約の制度の全容がホームページから誰でもわかるようにする等。
- 原発を再開しないと停電するかのような誤解を招く広報を直ちにやめる
原子力発電所の運転再開がなければ供給力が数百万kWの規模で不足する、という誤解を招く広報*を停止する。そして、ピークの主要な原因になっている平日午後の業務用需要を減らしやすくするなど、効果的な需要管理のために必要な情報提供をするべきである。
(*「原子力発電の運転停止にともない、電気の供給力は厳しい状況です。(略)更に追加的に原子力プラント6〜8基程度の運転再開を目指します。」東京電力ウェブサイト
http://www.tepco.co.jp/setsuden/corp-com/saving/01_1-j.htmlより
【中長期的に実現すべきこと】
原子力や化石燃料のリスクに依存した電力供給から脱却し、省エネルギーや効率化の推進と再生可能エネルギーによる電力の供給を行う電力会社になる。
II 日本政府への提言
【この夏に行うべきこと】
- 原子力発電には問題があることを認める
電力の
"供給を安定"させるはずであった原子力発電が、実は電力"危機の原因" なったという事実を謙虚に認めること。
- 省エネと再生可能エネルギー普及プログラムを
省エネと再生可能エネルギーの早急な拡大と普及のための有効なプログラムを立ち上げ、「リスク回避」の道をとること。
- 原発を再開させない
日本政府は、ヒビ割れのあった原発に対する「安全宣言」を取り消し、運転再開を許さないこと。そしてまず、ヒビ割れのメカニズムの解明に努めるべきである。
【中長期的に行うべきこと】
- 再生可能エネルギーを国のエネルギー政策の中心に置き、最終的には原子力や化石燃料に頼らない電力供給を行うべく、再生可能エネルギーの拡大・普及を図り、同時にエネルギー利用の効率を高める施策を実施すること。
- 化石燃料や原子力への補助金をやめ、再生可能エネルギーの拡大、普及のための補助にまわすこと。太陽光発電や風力発電の初期費用がいまだ高いことと、電力の買取価格が充分高くないことが、普及の障害となっている。
- 原子力安全保安院が安全よりも運転再開をめざすのは原子力の推進機関である経済産業省と一体であるためである。今回の東京電力のような不正を二度と起さないためにも、原子力安全保安院を経済産業省から完全に独立させ、公正取引委員会のような独立機関とするか、環境省下に置くべきである。
- 使用済み核燃料の再処理は、更なる著しい放射能汚染を引き起すことがイギリス、フランスなどの事例で既に明らかになっており、費用の目処も立っていないことから、中止すべきである。
- 原子力推進を止め、脱原発政策を採用し、以下を実行すべきである:
新規の原発計画を撤回する。 現在稼働中の原子力発電所の順次廃棄・解体を促す。 核のゴミについては、その総量を明らかにし、十分な住民参加を経て最終処分地を決定する。
- すなわち、使用済み核燃料の再処理については行わない。すでに再処理して製造されてしまったプルトニウムに関しては、固定化の技術を開発・実行し、核兵器への転用を不可能にした形で総量を明らかにし、充分な住民参加を経て最終処分地を決定する。また、原子力推進の広報・教育は行わない。
III. 需要家への提言
[家庭、事業者、官公庁、学校などさまざまな分野が含まれる。ここではこの夏向けの短期的なものを取り挙げた]
電力需要のピークは平日の昼間1時から4時の3時間の間に生じるが、この中で多くを占めているのが業務用電力需要である。この最も多く使っている部門で効率的に省エネを行うことがピークカットに最も効果があるといえる。
電力不足自体は、東京電力の不祥事が引き起した問題だが、夏の電力利用の仕方を工夫したり見直したりする機会でもある。
特に事業者が実施できること: 電力需要のピークを減らすには、業務用の午後の電力消費、特にエアコン需要と待機電力を小さくすることが非常に重要である。また、時間を「ずらす」と無駄を「省く」、ことが大切なポイントになる。尚、ピークの時間帯に節約したら電気料金を割引く制度も、是非利用するとよい。
- 需給調整契約を結ぶ
それぞれ自主的に努力をするだけでなく、電力の供給が逼迫するときにに節電をすることにすると電気料金が割引になるという電力会社の制度を積極的に利用する。これは電力需要ピークをずらすのに効果的な方法である。 尚、契約電力50kwの需要家から対象になっている。
- 「冷し過ぎ」をやめる
室内の温度を28度に設定する、ブラインドで熱をさえぎるといった工夫をしている事業所も有る中、例年、冷え過ぎの店舗やオフィスも話題になる。ピーク時に電気使ってる7割はお店や事務所、その大部分がエアコン需要であるので1時から4時の間の「冷やし過ぎ」を止めるだけでも大きな効果がある。
この他、家庭と共通することは以下にまとめた。
市民一人一人に効果的にできること:
※
家庭での無理な省エネには注意(暮らしや健康に無理な負担をかける前に出来ることがあります)。時間を「ずらす」と、無駄を「省く」、がまず無理なく節約するポイントである。
- 無駄を省く
待機電力をなくす。電力消費の1割が待機電力と言われている。給湯器のスイッチや使っていない部屋のエアコンのコンセントを切るのは無理なく出来る節電の一つ。
- 時間をずらす
1時から4時の3時間が電力ピークの起きる時間。アイロンや電気湯沸し器などは、この3時間を避けて使用する。
- 無駄を省く
待機電力をなくす。電力消費の1割が待機電力と言われている。給湯器のスイッチや使っていないテレビや部屋のエアコンのコンセントを抜くのは無理なく出来る節電の一つ。
- 意見を言う
【自治体へ】 現在運転停止中の原発を再開させないように、東京電力会社および原発立地自治体の首長、議員に働きかける。 [グリーンピースのホームページでは東京電力の原発10基を抱える福島県の知事あてに、原発の再開をしないよう求めるサイバーアクションを行っています。どうぞご参加ください。]
- 居住する自治体やその施設に需給調整契約を結ぶよう求める(たとえば、東京電力管内の都県庁は既に契約しているが、他の公共施設ではまだのところも多い)。
- 自治体として再生可能エネルギーを率先して導入することや、住民が導入しやすい補助措置を設けることを求める。
【経済産業省へ】
- 経済産業省原子力安全保安院に対しヒビ割れ原発に対する「安全宣言」の撤回を求める。
- 再生可能エネルギーをエネルギーの中心とすることを目指して普及拡大し、同時に省エネルギーを進めるために有効な施策を早急に導入するよう求める。
【政府・電力会社へ】
- 原子力発電の労働者、周辺住民、環境への影響を明らかにすることを政府・電力会社に求める。
- 原子力発電所の順次閉鎖を政府・電力会社に求める。
- 原子力推進の広報・教育を監視し、それを行わないことを政府・電力会社・教育機関に求める。
- 省エネルギーを更に進め、再生可能エネルギーによる電力供給へと転換を図るための有効な経営や施策を早急に導入するよう求める。
お問合せ: グリーンピース・ジャパン 気候変動問題担当 関根彩子 核問題担当 鈴木かずえ 電話
03-5338-9800 Fax. 03-5338-9817
email:energy@greenpeace.or.jp 東京都新宿区西新宿8-13-11 N・Fビル2F
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