EEE会議(Re:核燃料サイクル・オプション論争:永崎氏→豊田氏).............................2003/7/12
皆様
標記テーマに関する豊田正敏氏のコメント(7月8日)に対し、永崎隆雄氏から重ねて次のようなメールをいただきました。ご参考まで。 度々申し上げますが、本件は非常に重要なテーマでありますので、出来る限り多くの方々による多面的なご議論を期待しております。断片的なコメントや反論でも結構で、ご希望により匿名での配信もいたします。--KK
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豊田様、ご回答ありがとうございます。
1.再処理工場建設費が約2兆円になった件で当時の社長、豊田様は当初の再処理工場建設費8,400億円は根拠がなく電力会社を騙していたのかと通産省に激怒したそうですが、何故自分で計算してみなかったのですか。総括原価主義で幾ら高くてもいいと考えたのではないですか?
フランスやイギリスの再処理工場建設費が43億j(5000億円)程度であることはOECD/NEAの報告書等より分かっていたのではないでしょうか?
2.豊田様は社長退任後の現在、日本のプルサーマル(使用済燃料の再処理とプルトニューム燃料の再利用)がワンススルー(使用済燃料の直接処分・使い捨て)に比べ、極めて高く、止めるべきだといっておられますが、それはkWh当たり、いくらですか?
以下がエネルギー調査会の計算例ですが豊田様のご指摘より私が計算した値を右に示しました。ワンススルーはウランと濃縮とU再転換加工がエネ調計算よりも18%増大し、又、使用済燃料の直接処分費は量や発熱が大きくなり高くなりますがプルサーマルの2.6倍で計算してみました。差はそれほどありません。
プルサーマル ワンススルー
エネ調H11年 今回計算 エネ調基準(永崎)
円/kWh 5.9 6.15 5.67
資本費 2.3 同左 同左
運転維持費 1.9 同左 同左
ウラン 0.17
同左 0.20
濃縮 0.27
同左 0.32
U再転換加工 0.23
同左 0.27
再処理 0.63 0.89円 0
Pu輸送・MOX加工 0.07 0.058円
0
中間貯蔵 0.03 同左 同左
廃棄物処分費 0.25 同左
0.65
高レベル廃棄物処分費用 : 0.23〜0.34円/kWh
4万本(1280dの核分裂性生物)の高レベル廃棄物(ガラス固化体)で2.1〜3.1兆円
1dの核分裂性生物は1GW 1年発電=70億kWhの発電より
3.豊田様は当面の大停電防止のため再処理を15年間は続けなければならないとしていますが、更に次の事が挙げられますが如何ですか?
1
将来世代へ負の遺産(未処理の使用済燃料)を残さない
2
核拡散上問題となるPuを焼却処分し、国際信用を高める
3
再処理は新しい日本の未来を切り開く科学技術産業である
4
直接処分の見通しの方がもっと不透明である
5
実操業による安全データがないと合理化コストダウンができない
6
石油や天然ウラン購入のバーゲニングパワーで、経営を安定化させる
特に、将来世代への負の遺産を減らす努力を経済性第1で無視して良いのですか?
プルサーマルは将来世代に残す負の遺産である高レベル廃棄物がワンススルー(使い捨て)方式に比べ放射性物質重量で約1/20〜1/16、無害化期間(放射能が天然ウラン鉱石並に減少する期間)が数百万年から数千年に短縮し、処分場が小さくてすみます。現世代の僅かの経済利益のため、使い捨てなどやって良いのですか?
また、北朝鮮が貯蔵していた使用済燃料からPuを回収し、原爆を造ろうとしている現況から、使用済燃料の長期保管は国際信用を落とす可能性がありませんか。速やかに再処理してPuを燃やす事が良いのではないですか?
4.豊田様は“コストの1円/kWh位の上昇が経済的に極めて高く、プルサーマルは何のメリットもないから15年後はやらない”とおっしゃいますが、我々国民は1円の20倍もの超高い電力費を払っているのですから、自助努力でプルサーマルをやってほしいと思いますが。勝手にメリットがないなど言われても国民は信じられませんが如何でしょうか?
5.豊田様は一体どういった日本をお作りになりたいのですか?何のために日本原燃は作られたのですか?
豊田様は「ウラン価格が安い間はウランを燃やし、使用済燃料は40~50年間長期貯蔵し、長期貯蔵された使用済燃料は、40~50年後の時点に、ウラン価格が上昇し、かつ、高速増殖炉またはプルサーマルが経済的になっておれば、再処理・プルトニウムリサイクルを行い、それらが経済的になる見通しがなければ、直接処分を選択肢とすべきである。」とのお考えで、只、只成り行きに任せ、安いものに安いものにという事で良いのでしょうか?
リサイクル社会の建設やエネルギー自立や科学技術産業立国建設や国家安全保障や原子力平和利用による核兵器処分等の日本のあるべき姿が見えませんが?
豊田様には核燃料サイクル事業をわが国に興すという気概が見られません。
6.40~50年の長期間に亘り、極めて割高なプルサーマルが続くとの見通しですが、既に豊田様時代のバブル時代は崩壊していますし、バブルに踊ったメーカも整理されているでしょうし、プラント建設コストも償却が終了するでしょうから安くなりませんか?
・豊田様時代のバブル時代はもはや日本の産業界全体で終わっています。ビル建設費も地価も設備費も株式も大暴落をしています。バブルに踊ったメーカも大いに反省していますし、電力自由化や中間貯蔵の切り札もあります。安くなるでしょう。
・15年もすれば六ヶ所の再処理工場は償却が終わっています。コジェマ社が償却終了後、安い再処理価格(0.33円/kWh位)を提示していますがそのように日本もできるのではないですか?
日本の再処理費3.9億円/d(0.89円/kWh)は15年間の総事業費3.9兆円(建設費2.1兆円+操業経費1.7兆円)(2002年東奥日報)を15年間の総再処理量1万dで割って見積もりましたが、建設費の償却が終わった次の15年間は操業経費1.7兆円÷1万d=1.7億円/d(0.36円/kWh)と成ります。
当然、諸外国並(0.7億円/d=0.16円/kWh)を目指すべきでしょう。
7.ワンススルーが当分安いとの豊田様の考えの背景
“ウランの需給は緩んでおり、価格は安い状態が当分続く見通し”は米国の原子力再興等で変わってきていませんか?
豊田様の見通しは
1
世界各国の原子力からの撤退
2
解体核からのウラン、Puの発生とその利用
3
プルサーマルの実施
等があったからで、プルサーマルなどの競争相手がいるから安くなった事を忘れてはいけません。
又最近、ウラン需要面で以下のような原子力復興の動きがあり、ウラン需要が増大し、価格が上がることが考えられます。
1
米国原子炉103基の寿命の60年への延長とNEIの2020展望による2020年までに5000万KW原子力を新設する提案と米国政府支援
2
高度経済成長中の中国の電力不足と2020年までに3,000〜4000万kWの原子力建設計画
IAEAの最近の研究(IAEA−SM−362/2)によれば、今後は、米国原子炉寿命の延長、東アジア・インドの原子力成長等原子力の持続的な成長等より確認Uの生産能力不足が2020年代後半から起こる事が予想されています。そのためコストが130j/KgU以上のウランに頼るか、Puリサイクルをするか等各国の対応が求められています。
8.高速増殖炉の実用化の目標
JNC−原研2法人報告会でJNCは以下の開発目標を示しました。
1 2015年頃 競争力あるFBRサイクル技術体系提示
2〜2030年 実プラント試験導入
3 2030年〜 商用炉本格導入
豊田様は原型炉「もんじゅ」に続き、実証炉、実用炉(パイロットプラント)の2段階が必要と考えており、50年もの長期開発計画を提唱していますが、今時、そんな昔の計画経済的な時間と金のかかる開発手法など取れないのではないですか?
今までに何十年ものNaを回し続けた運転実績と燃料照射の実績と高度のコンピューターシュミレーションコードがあるのですから改良型軽水炉でやったような商業運転をしながら改良する手法を取るなど、早く、安く商用化に持っていってもらわなければなりません。
高速炉開発に対する豊田様のお考えの中には他人(国)の負担に成る事なら幾らコストがかかろうが構わないとの利己主義が見えますが?
9.豊田様のご指摘“原子力委員会が、福島県知事の「核燃料サイクル政策を国民レベルで論議して見直しを考えるべきである」との意見を全く無視して”とか“
使用済み燃料の長期貯蔵を認めない”とかは事実に反していませんか?
原子力委員会は核燃料サイクルの意見を聞く会を昨年秋より、開催しております。地元市町村、労組代表、主婦連、電力、マスコミ、行政、学者、メーカ等から公開で意見を聴取しています。私も傍聴いたしましたが、資源の自給、環境負荷の低減等より使用済み燃料の使い捨てはやめてくださいとの意見が大多数でした。
本年春の原産年次大会で原子力委員長は“柔軟な現実方策として核燃料サイクルを円滑に進めるために中間貯蔵を認めている”とのことでした。むつ市が建設に了承を与えたとの報道もされました。原子力委員会のホームページをご覧下さい。
10.豊田様は“原子力が危機的状況にあり、今のような状態が続けば、原子力産業は衰退の一途を辿ると危惧し、原子力産業会議も具体的打開策を真剣に検討すべきではないでしょうか”との事ですが全く同意いたします。
今、日本は大きな変革を迫られています。個人的に日本の原子力界の大きな矛盾は以下と考えています。
1
トラブルがあればあるほど儲かる下請多層構造
2
ごねればごねるほど儲かる地元自治体
3 廃棄物を出せば出すほど儲かる下請構造
4 仕事をしなければしないほど安全で楽な現場
5 成果を上げれば挙げるほど職場がなくなる研究開発システム
6 使い捨てが儲かる電力
このような体質を許す基盤は原子力が他の電源よりはるかに安く高利潤だった上に総括原価方式で守られてきたからだと思います。原産会議の会員企業数は約700社にもなります。米国の原産会議の会員企業数は原子力の規模が2倍であるにもかかわらず、300社と聞きます。
極論を申しますと、豊田様の再処理工場は3兆円でも6兆円でもやれるのです。10円/kWhの石油火力に比べればまだまだ安いし、余力がありますから。これをメーカは知っていて、電力会社の懐具合を見て、高い値段を言ってくるのではないでしょうか。
電力会社も安い2級品を買ってトラブルに惑わされるより、トラブルのない極上品を求めたのではないでしょうか。こうして日本の原子力界は幸せな桃源郷に安住してきたのでしょう。
しかし、これはやはりおかしいわけで、グローバル化と国際競争が低価格電力による国の産業基盤強化を迫ってくるわけで、世界的な電力自由化の流れが生じたわけでしょう。
先行した米国では原子力は稼働率92%を達成し、高い原子力支持を獲得しました。
今後、自由化を迎える電力や国は負の発展メカニズムを他人事では済まされなくなり、この矛盾を解消する改革に、真剣に取り組むと思います。
例えば
1
原子力発電保修の直営化とアライアンスや維持基準の導入や
2
40年の実績のPSAによる規制の合理化や廃棄物のクリアランスレベルの導入
3
電源開発促進税の原子力減税と地方税化とか
4
廃棄物処理処分費の発生者負担と直営事業化とか
5プロジェクト予算申請制の研究開発制度とか
6商業化主体と開発主体の一体化開発とかプラント建設者の一部運転員化とか
7
適切な環境税による行きすぎた儲け主義企業倫理の是正とかです。
このコスト削減の余波は原産会議や多くの原子力産業会社に及び、会員会社数は減少し、米国のNEIのように直営化による提供サービスの質向上と速報、クイックレスポンス・時間短縮を迫られると思います。
そしてこの改革を成し遂げた暁には今日の米国原子力界のようなルネッサンスが訪れると信じています。少なくとも原子力の大更新時代が来る2030年までには改革を達成しなければならないと思います。
11.豊田様の“プルサーマルの全炉心は他の炉でも制御系を変更すれば十分可能で難しい技術ではない。むしろ、豊富な経験のほうが重要と考える。”については同意いたします。
だから、電力はさっさと全炉心Pu燃料装荷へ進めるべきでしょう。
ただ、古いヨーロッパやロシアの炉では対応が困難なため燃料側で対応せざるを得ず、そのために15年くらいの開発を要すると聞いています。
以上