各位殿
皆様、お元気ですか。
小生、4月の米国訪問に続き、目下1ヶ月の予定でヨーロッパ旅行中ですが、各国で
旧知の国際・外交問題の専門家達との懇談を通じて、今後の国際政治情勢、とりわけ
米欧関係の動向、そしてそれらの北東アジアや日本の安全保障への関わりといった問
題点について色々考えさせられております。
顧ると、米ソが対立した冷戦時代、米欧間の意見の違いはあったにしても、主に戦術
に関するもので、今次イラク戦争のような軍事力行使の目的をめぐる深刻な意見対立
はあり
ませんでした。米国も欧州も、ソ連軍が攻撃を仕掛けてくる可能性に対する抑止力と
して、欧米の共同防衛体制に依存しなければならなかったからです。
しかし、ソ連という「悪の帝国」が消滅し、共通の敵がいなくなったことで、双方の
関係は今、過去に例を見ないほど微妙になってきています。仏独等の「古い欧州」
(ラムズフェルド米国防長官)は、21世紀型の非対称の戦争、対テロ戦争につい
て、米国が脅威だとするものを、同じ程度には脅威と感じていません。そして、米国
は統合欧州が今後、奈辺に向かって歩みつつあるのか、疑念の目で見ております。
ブッシュ米大統領の言う「悪の枢軸」のうちイラクでは、米英の軍事行動でフセイン
政権が崩壊しました。北朝鮮、イランでは、核問題に絡んで、非難の応酬や疑念が依
然として渦巻いていのが現状です。しかし、実際の戦略問題としては、北朝鮮やイラ
ンは元来欧州の問題ではありません。主に米国とアジアの問題です。少なくとも欧州
側はそう考えているようです。
折りしも、昨日ラムズフェルド国防長官は、ブリュッセルで6月12日から開催され
る北大西洋条約会議(NATO)国防相会議に出席するため、欧州歴訪に出発しまし
た。国防相理事会では、来年5月に加盟するラトビアなどバルト3国や、ポーランド
など東欧諸国、いわゆる「新しい欧州」との関係強化を図る狙いがあります。
いまや、軍事情報革命(RMA)の成果により、精密誘導爆弾やネットワーク化され
た統一軍指揮系統の活用で、米軍の戦闘能力は世界に並ぶものがない水準にまで達し
ています。これは今次イラク戦争で十分証明されました。そして、ラムズフェルド長
官は、米軍の欧州における軸足を「古い欧州」から「新しい欧州」に移そうとしてお
り
ます。
単独行動主義、必要なら先制攻撃も辞さないという対テロ戦争でのブッシュ・ドクト
リンを「新しい欧州」は受け入れる姿勢を見せているからでしょう。冷戦時代のよう
な共通の敵を失ったNATOは1999年春、50年にわたるその歴史上初めての共
同軍事行動としてコソボ紛争に介入しましたが、情報収集の99%を米軍に依拠して
いたし、使われた武器、弾薬もほとんどが米国製というのが実態でした。自らは手を
汚さずに安全保障の恩恵だけを受ける「古い欧州」に対する米国のいらだちが見え
隠れするようです。米欧関係は今後大きく変質して行くような予感がします。
翻って日本、南北朝鮮を含む北東アジア情勢ですが、このところブッシュ政権の北朝
鮮対策は、イラク戦争終結直後の緊迫感が薄れ、やや不透明になってきております。
4月末の米朝中3者協議(北京)からはや2ヶ月近くたち、第2回目の3者協議の可
能性も取り沙汰されていますが、日本がつよく主張する多数国間協議の方は全く目途
が立っておりません。
現時点で最大の問題点は、昨年末反米路線を掲げて大統領に当選したロムヒョン政権
の態度がはっきりしないことでしょう。今般のロ大統領の訪日でもこの点では進展は
なかったと思われます。
これに対して米国は、現在38度線の直ぐ南に展開している在韓米軍部隊の後方への
移動計画などをちらつかせて同政権を盛んに牽制していますが、他方ワシントンの一
部では、日本についても在沖縄米軍の転出構想が真剣に検討されているようです。
ヨーロッパから見ておりますと、こうしたブッシュ政権の一連の動きに対して、どう
も日本国内の反応は今ひとつ鈍いように見受けられますが、皆様はどう見ておられる
でしょうか?
この続きはいずれまた、ベルリンあたりから。
金子熊夫
(パリにて)