現実的なロードマップの再構築を!
我が国の核燃料サイクル政策に関する提言
2004年6月11日
EEE会議有志会員一同
我が国が原子力平和利用の一環として原子力発電の導入に踏み切ってから来年で50周年を迎える。顧みれば、最初の原子力長期計画(長計)に関わった関係者のエネルギー安全保障にかける熱意は大変なものであった。戦時体験を通じて、エネルギー資源の重要さを身に沁みて認識していた者も多かった。未曾有の大戦争に敗れ、資源も無い日本に残されたものは、人とその知恵、技術立国しかない。原子力は無資源国日本に新たなエネルギー源を与えてくれる可能性がある。とくに高速増殖炉が成功すれば日本のエネルギー・セキュリティは確保される。しかも、原子力は技術が生んだエネルギー、技術立国の日本に最適である、というのが一致した意見であった。
当初の「長計」は国の研究、開発の長期計画であったから、エネルギー・セキュリティーを含めて、研究開発の長期的目標を示す必要があった。そして、この中に使用済燃料の再処理と高速増殖炉の開発が、当時の夢と理想を表す長期的目標として組み込まれた。
爾来半世紀を経た今日、時代環境は内外ともに大きく変化し、再処理についても、高速増殖炉についても、技術的、経済的課題に加え社会的にも多くの問題を抱えるに至っているが、この原子力開発の基本的理念を否定すべき理由は見あたらない。
しかし、半世紀に亘る巨額の研究開発投資にも拘わらず、我が国最初の商業用再処理工場である六ヶ所工場は未だに試運転の途上にあり、高速増殖炉も原型炉「もんじゅ」の試運転段階でストップしたままで商業化の見通しは得られていない現実を見るとき、この夢や理想は変わらないものの、現実の時間と費用の制約の中で、従来路線の徹底的な再評価とロードマップの再構築は避けられない状況にある。
従って、次期「長計」の策定にあたっては、現実を直視した新しいロードマップに基づき、その「長計」の期間内に達成すべき目標を明示し、その実現を図る着実なステップが求められる。以下に次期「長計」の主要な課題についての我々一同の所信と提言を明らかにし、関係当局における今後の政策立案の参考に供することとしたい。
1. 高速増殖炉
原子力開発において高速増殖炉の実現は大きな柱の一つであったが、当初の期待にも拘わらず、社会の意識の変化、ウラン需給の変化、米国の非再処理政策への転換などの外部事情の変化があったとは言え、多額の研究開発投資による過去半世紀の開発努力を以ってしても未だ開発の途上にあるのを見るとき、高速増殖炉の開発が技術的、経済的に難問が多いこと、技術的ブレーク・スルーの必要性と共に、開発の推進に関わる国、民間、実施機関の基本的進め方、体制、組織、手法などに改革の必要性があることを示唆している。
これらの反省を踏まえ、今後の高速増殖炉の開発においては従来の実験炉、原型炉、実証炉、実用炉という手法にこだわらず、開発のロードマップの設定と国際協力を含めた開発方策の設定が重要である。
次期「長計」の策定に当たっては、今後の開発の効果的な推進のために基本的進め方、体制、組織、手法などについて検討を行うと共に、現在実施中の「実用化戦略調査研究」などの成果と次世代システムの研究開発に関わる国際協力の活用及び位置づけについての検討を行った上で、高速増殖炉技術開発の中核としての「もんじゅ」の位置づけを含む高速増殖炉実用化に向けた開発の目標、体制、スケジュール、戦略をその燃料サイクルの開発を含めて明確にすることを提案する。
2.全量再処理
現在の「長計」は使用済み燃料の「全量再処理」を基本としている。「全量再処理」は再処理リサイクル路線を採る限り当然の帰結であるが、過去多くの議論の結果として現在の表現となった経緯がある。当初は、原則「即時全量再処理」という文言が用いられていた。これは商業用原子炉の開発を優先して、再処理技術の開発を二の次にすることのないよう、再処理技術開発を早期に進めるための文言であった。その後の原子力開発は、高速増殖炉も再処理技術も多くの困難に直面し、議論の末、「即時全量再処理」のうち、「全量」を残したまま、「即時」の二文字が除かれた。「即時」ではなくとも、何時かは全部再処理することを目指して技術開発を進めるとの趣旨である。しかし、今日、「全量再処理」という文言は、一部たりとも再処理せずに処分してはならないかのように受け取られているが、これはあまりに狭量な解釈というべきである。次期「長計」においては「全量」の文言の有無に関わらず、「再処理を基本とする」ことを明確にするよう提案する。
3. 再処理施設とプルトニウム利用計画
昨年8月に原子力委員会は「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方について」と題する決定を発表し、その中で「プルトニウムを分離する前にその利用計画を公表すること」を電気事業者の義務として明記した。この決定は、その本来の意図は別としても、一般には「プルトニウムの利用計画が具体的に定まらないと再処理が出来ない」との趣旨と受け取られがちである。しかし、再処理工場を稼動するか否かを判断する要素はプルトニウムの需要に限らない。六ヶ所再処理工場はプルトニウム生産のほか、蓄積された使用済み燃料の処理、高レベル放射性廃棄物の減容、再処理技術の習得等々も目的としており、そのためにも同再処理工場の早期稼動は必要不可欠である。更に中間貯蔵の進展状況または地元情勢によっては、稼動の継続が必要となる可能性もあり、稼動理由をプルトニウムの需要のみに限定することは、従来の方針と矛盾するだけでなく将来に禍根を残す恐れがある。よって、この原子力委員会決定は早急に見直すべきことを提案する。また、電力自由化が実現した場合には、当然のことながら事業者が稼動率を決定すべきであるが、もし自由化の下で国が稼動率を左右することとなるならば、事業者に対し経済的補填を含め、何らかのインセンティブを与えるような方策を採ることが必要である。
4.使用済燃料の中間貯蔵
上記のような基本理念を引き続き堅持するとしても、再処理を取り巻く国内の厳しい現状を鑑みると、使用済燃料の一部を直ちに再処理することなく一時貯蔵して置く必要性があり、実際問題として中間貯蔵はやむを得ない選択である。過去において中間貯蔵の是非が議論されたのは、中間貯蔵が、再処理技術開発を遅らせる口実と受け取られたことに原因がある。原子力委員会は、現時点での中間貯蔵の必要性を明確に示すべきであり、また、サイト内に余裕がある場合にはサイト内の中間貯蔵が最も望ましいことを明示すべきである。なお、中間貯蔵が民間事業者によって実施される場合、中間貯蔵終了後の使用済燃料の処置についての国の保証が求められている。このことは、使用済燃料から派生する高レベル廃棄物を含む放射性廃棄物の処置についても言える。これら使用済み燃料に関わる国の最終責任を法的に明確化することを提案する。
5.使用済燃料の直接処分
現在、使用済燃料を再処理するよりも直接地層処分すべきとする意見があり、原子力委員会に直接地層処分の経済性評価を求める声がある。原子力委員会はこの声に応えて、再処理と直接地層処分との経済性を含めた総合的な評価検討を行い、再処理路線を選択する理由を明確に示すことを提案する。
しかし、再処理などの今後の推移如何によっては、暫定的に使用済燃料の一部を地層中に「直接処分」する方式の選択もあり得る。高レベル放射性廃棄物の地層処分との位置づけの差異を明確にした上で、立地を含めて予めこの問題に備えた検討を行っておくことが望ましい。但し、いうまでもなくこの選択は基本理念の放棄を意味するものではなく、地層中保管燃料を再度取り出して再処理する可能性も残しておくように計画することが望ましい。
6.余剰プルトニウム
再処理工場の稼動は、上記第3項に述べたように種々の理由によって決められるのであって、プルトニウムの需要量のみによって決定されるものではない。また、在庫のプルトニウムはいずれ燃料として燃やされるので、使用目的は明確であり、所謂「余剰プルトニウム」には該当しないと見るべきである。そもそも「余剰プルトニウム(excess plutonium)」とは国際原子力機関(IAEA)憲章(第12条A.5)に記載されている概念で、核燃料サイクル活動上必要性のないプルトニウムを意味し、これを核拡散防止の観点より適正に管理する目的で定められたものである。従来、我が国は「余剰プルトニウムは持たない」との方針を内外に明らかにしているが、この意味するところは必ずしも明確でない。何れにしても、原子力委員会は、無用の混乱を避けるため「余剰プルトニウム」とは何を指すのか明確にするべきであるが、その意味からも、第3項で述べたとおり、昨年8月の原子力委員会決定を見直すことを提案する。
7.プルトニウム国際管理(貯蔵)構想
我が国は過去50年間一貫して、原子力基本法の下原子力開発利用を厳に平和目的に限定するとともに、非核三原則を国是とし、核兵器不拡散条約(NPT)第3条に基づくIAEAの厳格な査察を全ての原子力活動に対して受け入れているので、核拡散上の疑惑はすでに十分排除されている筈である。しかしながら、昨今の国際政治状況に鑑み、我が国が、自らのプルトニウムを含む核燃料サイクルの透明性を一層高め、国際的な信認を得る努力は怠るべきでなく、そのための具体的な措置の一つとして、プルトニウムに関する合理的かつ実効的な国際管理(貯蔵)レジーム等の国際的な構想の検討に積極的に参加すべきことを提案する。
以上
(以上 計47名)
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