EEE会議 第12回講演・研究会 議事録
日時: 2004年3月4日(木曜日) 14:00〜16:00
場所: (財)
原子力発電技術機構会議室
講師: 遠藤哲也氏
(前原子力委員長代理、元IAEA理事会議長、日本政府代表、EEE会議特別会員)
演題:新しい国際核管理体制の必要性と可能性
〜ブッシュ提案とエルバラダイ構想〜
【講演要旨】
核不拡散体制をめぐる近年の国際環境 (危機感)→ エルバラダイ構想、ブッシュ構想
‖
NPTに対する挑戦
@ 外部からの挑戦 (イスラエル、インド、パキスタン)
A 内部からの挑戦 (イラク、北朝鮮、イラン、リビア)
B 国家以外のアクターからの挑戦 (テロリスト(核テロ)、ソ連崩壊→核物質・関連技術流出)
エルバラダイ構想 (2003年10月英エコノミスト紙、11月3日付け国連IAEA事業報告)
@ 核不拡散体制を補う新たなアプローチの必要性
フロントエンド:プルトニウム抽出、ウラン高濃縮事業の国際的管理体制を作る。
国際管理の反面、燃料の供給保障を与える。(IPS・IPM型 or ウレンコ型)
A 核不拡散抵抗性の強い原子炉、核燃料サイクルの開発の必要性
B 使用済み燃料、放射性廃棄物の国際処理
バックエンド:核不拡散、コスト、安全性の観点から、多国籍化された使用済燃料処理が必要。
IAEAにおける有識者セミナーの内容(配布資料p.2-8)
参加国:核燃料サイクル事業を行う国は少数 → 日本の立場は孤立無援に近い
エルバラダイ構想の問題点
@
実現可能性
・核兵器国、疑惑国、敷居国(インド、パキスタン、北朝鮮等)をどうやって入れるのか?
・アメとムチとは何か?有効か?
・国際管理とかは何か?
A
不平等性
・NPT自体が不平等条約であり、さらなる不平等性の既成事実化が受け入れられるのか?
B
その他
・核兵器国、敷居国が入らない場合、何のための国際管理か?結果として、日本だけがその対象になりかねない。
・IAEAの査察能力の強化、追加議定書の普遍化に努力すべきでは?
・発生者責任の原則、廃棄物の国際輸送等ついても問題がある。
ブッシュ構想 2004年2月11日、7項目からなる核不拡散防止の新提案
@
原子力供給国グループの抜本的規制強化
現在核燃料サイクル活動をフルスケールで行なっている(functioning)国には今後ともウラン濃縮、プルトニウム抽出を認めるが、それ以外の国には認めず、関連機器の売却もしない。
A 核開発疑惑国のIAEA理事会からの追放
B PSIの強化
エルバラダイ構想とブッシュ構想の共通点
@ 核不拡散体制の強化
A NPTの枠外での体制強化
実現可能性:ブッシュ構想(早い?有志同盟)> エルバラダイ構想(遅い?コンセンサス)
【質疑応答・自由討論】
金子熊夫(司会、EEE会議代表)
エルバラダイ構想、ブッシュ構想という2つの国際核管理構想に、日本として如何に対応していくべきか?とりわけ、日本の核燃料サイクル政策にどういうインパクトがあるのか無いのか等にポイントを置いて議論をお願いしたい。
エルバラダイ構想のマルチな考え方は昔からあるもので、何も新しくはない。ブッシュ構想も、そう目新しくはないが、NSGを使い、まだ再処理・濃縮を本格的に手がけていない国には技術協力をせず、規制を強化しようということ。既得権益国である日本に悪影響はないだろうが、認識を統一する必要がある。日本には「受身」というか「被害者意識」が多くみられるが、むしろ日本から積極的な提案をしていかなければいけない。例えば、アジアでは、韓国、(台湾)、インドネシア、ベトナム等非核兵器国と連携し、“アジアトム”のような形態も対応策の1つとして検討していくべきであろう。
吉田康彦(大阪経済法科大学教授、元IAEA広報部長)
問題は、@核兵器国、疑惑国、敷居国が入らなかったらどうするのか?という点、A国際管理とは何なのか?実効性があるのか?という点だろう。そこで、IAEAセミナーの参加者から、何か良い解決策、アイディアが出されたのかお聞きしたい。
また、ブッシュ構想では、追加議定書のサインと遵守により、核物質の提供が保証されるとあるが、本当にそれがアメとなるのか?
NPT再検討会議が来年開催されるが、恐らく破綻するとの予測も聞かれるように、ブッシュ構想に対するNGOのリアクション(インターネット上)は極めて不評である。上から押さえ込むようなサプライサイドアプローチでは、核の拡散は阻止できず、国際環境そのものを変える必要があるだろう。核兵器廃絶、核軍縮が重要であり、核兵器国がそれを実行していない点に問題がある。
遠藤哲也(講師)
セミナーでは、エルバラダイ構想が核拡散防止に役立つとして、支持する意見が大半であった。実現可能性については、時間はかかるが、実現不可能な構想とはみられていない。またエルバラダイ自身は、IPS、IPM型よりもウレンコ(多国籍)型に傾斜しているようだ。
NPTの不平等性をさらに普遍化するのは確かだろう。反核NGOには不評判かもしれないが、国として反対しているところはまだ聞かない。
金子熊夫
確かに、NPTは不平等であり、アメリカの論理は一貫性が無く、核軍縮が前提であるという意見は正論である。しかし、今日の議論ではそれを問題点として認識しておくに留めたい。
アメの問題(燃料供給保証)については、ウランが現在買い手市場である上に、米露の核解体から出る濃縮ウランもあり、今後とも濃縮ウラン価格は下るだろう。従って、途上国に対する燃料の供給保証が、どの程度インセンティブとして働くのは難しいかもしれない。
吉田康彦
反原発論を唱えるものではないが、やはり国際的世論の動向の中で捉えていくべき。原子力も、未来永劫必要というのではなく、徐々にフェーズアウトしていくのが人類のためには良いかもしれない。こうした視点も重要である。
金子熊夫
この2つの国際核管理構想に関して日本国内ではマスコミも殆んど関心を示していないが、その中で、朝日新聞だけが、原子力自体の是非にまで言及していたが、ブッシュやエルバラダイは、原子力を廃止する方向でこれらの構想を提案しているのではない。
日本は、ブッシュ構想とエルバラダイ構想を踏まえて、独自の構想を出すことが出来ないか。ブッシュ構想のポイントは、経済的インセンティブを与える点にある。つまり、小規模原発国には、自国内で濃縮、再処理をしなくても済むよう、低濃縮ウランを市場価格より安く提供するなどの策が必要であろう。来年4月のNPT再検討会議に向けて、来月NYで準備委員会が開かれるが、両構想の途上国に与える影響は決して小さくはないだろう。NPT体制の崩壊も引き起こしかねない。
益田恭尚氏(エネルギー問題に発言する会会員、元東芝)
ロシアのように廃棄物処理事業を積極的に進める意向も聞かれるが、問題点は何か?
豊田正敏氏(元東京電力副社長、元日本原燃社長)
ロシアは、自国の核開発の資金を得るため、他国の使用済燃料を引き受けようとする意欲はあるが、何処まで安全に保管や処分を行うか疑問である。また、住民の反対も予想される。
マルチな管理をどこで行なうかという問題だが、ヨーロッパでは、スイスが処分量が少ないので、他国に依頼することも考えているといった途端に、ドイツやスウェーデンから他国のものを引き受ける意思はないと言明したように、神経質である。オーストラリアやアフリカの砂漠地帯や南極の氷の下に閉じ込めるといった構想もあるので、IAEAなどによる国際プロジェクトとして検討することが考えられる。
吉田康彦
世界的に住民の意識は高まっている。ヨーロッパではどこも引き受けないだろう。ヨーロッパの脱原発派の市民意識は、安全性よりも廃棄物の問題にある。
遠藤哲也(講師)
エルバラダイは、ヨーロッパ各国による個別の廃棄物処理は無理とみている。ヨーロッパに地域センターを作り、一箇所に集めて処理する方が、経済性、安全性の観点からも良いと主張している。
河田東海夫(JNC理事)
処分はどこも引き受けないとの見方もあるが、世界では、フィンランド、スウェーデン、アメリカのように、ここ10年ほど個別に具体的進展がみられ、日本でもNUMOの公募に前向きの反応が出つつある。中小原発国が全て自前の処分場を作るというのは現実的でなく、時間はかかるが、こうした環境の中、分散的な処分よりも中央的処分地を求める動きが出てくるだろう。
柴山哲男(〔株〕クリハラント営業本部副本部長)
六ヶ所の再処理施設はまだ運転していないが、「機能している再処理施設」と認められるのか?中国、北朝鮮、ロシア、日本に囲まれている韓国は、自国内での再処理が認められないような国際管理構想に対する反発を感じていないのか?また先に挙げられた疑惑国、敷居国以外に怪しげな国はどこか?
遠藤哲也
韓国は、差別を明確化するブッシュ提案に反対するだろう。六ヶ所については機能(functioning)していると認められ、日本を差別することはないだろう。疑惑国については、シリア、イランなど、中東は全体的に潜在国ともいえるが。南米ではブラジルかもしれない。
――以下、「余剰プルトニウム」に関する議論が出されたが、論点が主題から拡散したため、ここでは割愛する。
豊田正敏
エルバラダイ構想に、拡散対抗性のある原子炉、燃料サイクルを開発とあるが、高速増殖炉やプルサーマルというのはどういう位置付けにあるのか?
遠藤哲也
INPROもGEN4も核不拡散対応性というのが、経済性、安全性と共に1つの大きな条件になっているが、詳しくはフォローしていない。
山名康裕(月刊エネルギー編集長)
「余剰プルトニウム」の定義の問題もあるが、技術的抵抗性について日本から早急に提案すべきである。
河田東海夫
核拡散抵抗性については、往々にして核物質そのものの抵抗性(固有のバリア)の重要性のみが強調されがちであるが、技術的・制度的なバリアーとの組み合わせで達成すべきものであり、そういう主張をきちんとしていくことが大事だろう。
辻萬亀雄(元兼松エネルギー本部)
使用済み燃料は、一時的に国内に置き、将来は国際的適地を展望することを念頭においた国内枠組みを作ってはどうか?
河田東海夫
日本の国情からではなく、長期的視野から国際管理を支持する形がよいだろう。現状では日本は自国で処理するとの姿勢を国内外に示すべき。
発言者名不明
各国に処分場ができ実証されてくれば、国際的枠組みも自然と出来るだろうが、短期的には国内処理であろう。ただし、長期的視点からみた国際的処分について、日本の利害を検討すべき。
金子熊夫
ブッシュ構想もエルバラダイ構想も、大規模原発国を対象としているのではない。コマーシャルベースで採算の合わない小国を、核不拡散の方向でまとめて面倒を見るというもの。プルトニウムや使用済燃料についても、日本を念頭に置いた規制ではない。ただし日本は、既得権を持つ立場にあるとして、ただ傍観するのではなく、長期的かつ国際的視野の下、積極的に提案すべきである。本日の遠藤氏の講演、質疑から、今後の議論の方向性がかなり見えてきたように思う。EEE会議としても今後、特別のタスクフォースを設けて、この問題に積極的に取り組んで行きたい。
以上 文責:伊藤菜穂子
(早稲田大学大学院
国際政治研究科博士課程後期)